富士フイルム対DHC訴訟、特許無効で富士フイルムの請求棄却
特許が無効になることがあるのかと思われた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、現状として、実は、特許は無効になるケースは決して珍しいものではないのです。特許は、出願時点で新規・進歩性の要件が認められなければ付与されません。そして、新規性、進歩性については、特許庁がこれを審査するのですが、特許庁が審査の際、すべての先行文献を調査することは不可能と言わざるを得ません。
そうすると、実は、新規性も進歩性もないのに、特許庁が審査の際、先行文献を見落とすなどしたために、特許が与えられてしまうケースが少なからずあるのです。そして、特許を取得した企業が、特許権の侵害を理由に競合する企業にライセンス料の支払を求めた場合、支払を求められた側は、相当のコストと労力をかけて特許をつぶそうとします。具体的には、出願より先に存在する文献(技術論文、カタログ、業界紙、書籍等)を必死で調査するのです。
特許を無効にできる資料が発見できた場合、ライセンス料の支払を求められた企業は、特許庁に対し、特許無効審判を請求します。今回の件でも、DHCは、2015年2月、特許無効審判請求をし、特許庁は、2016年3月、特許が有効であるとの審決をしています。
一方で、富士フイルムは、2015年8月、DHCに対し、「DHCアスタキサンチン ジェル」、「DHC アスタキサンチン ローション」の製造販売を差し止める仮処分命令や1億円の損害賠償の支払を求めて東京地方裁判所に訴えを提起していましたが、2016年8月、東京地裁は、富士フイルムの特許が無効であるとして富士フイルムの請求を棄却しました。ちょうど、特許庁の審決と東京地裁の判決の結論が正反対になったわけです。
この判決を出した長谷川浩二裁判長は、平成2年に任官された後、平成17年には、知財高裁の判事を務め、平成25年からは、東京地裁の部総括判事を務めていらっしゃいます。
そして、昨年には、やはりサントリーホールディングスがノンアルコールビールの特許を侵害されたとして、アサヒビール「ドライゼロ」の製造・販売差止等を求めていた訴訟で、特許が無効であるとしてサントリーホールディングスの訴えを棄却していますから、特許の有効性について、やや厳しい見方をする裁判官なのかもしれません。
富士フイルムとDHCの特許を巡る争いは、今後、東京高裁に勝負の場を移します。当事務所は、本案件を引き続きウォッチしていきたいと思います。