令和6年施行の改正景品表示法によって、違反疑いへの対応策として“確約手続”が整備されました。今回、その確約手続の初適用事例として注目を集めているのが、パーソナルジム「かたぎり塾」を運営するcaname株式会社に対する消費者庁の通知です。
同社は、ウェブサイト上で「無料体験当日に入会すれば入会金50,000円が割引になる」と期限付きで表示していたにもかかわらず、期限を過ぎても継続的に割引を適用していた疑いがあると指摘されました。このような表示は、一見“お得感”をアピールするようで、実は景品表示法の「有利誤認表示」に該当する可能性があるのです。
有利誤認表示とは
景品表示法第5条第2号は、実際よりも取引条件を著しく有利だと誤認させる表示を禁止しています。たとえば以下のような例が該当する可能性があります。
- 「期間限定」と明記したにもかかわらず、実際は常時適用されている割引
- 「定価○○円のところ今だけ△△円」としているが、定価自体が形骸化している
今回のかたぎり塾のケースも、表示期限後の割引適用が日常化していた疑いがあるため、「実際よりも有利に見せかけているのではないか」と疑われました。
改正景品表示法で注目される“確約手続”
令和6年の改正により、景品表示法には「確約手続」という制度が新たに導入・整備されました。確約手続(景品表示法第30条以下)とは、違反行為またはその疑いがある行為について、事業者が自主的に是正計画を立て、それを消費者庁に認定してもらう制度です。これにより、行政処分(措置命令)の回避や軽減を図りつつ、被害を受けた消費者の救済や再発防止策を迅速に実施することができます。ポイントは以下の通りです。
- 事業者が自主的に違反行為(またはその疑い)を是正するための計画を作成・申請
- 消費者庁が計画を審査し、「十分かつ確実に実行される見込みがある」と認めた場合に認定
- 適切に是正措置が進められている間は、行政処分を回避または軽減できる可能性がある
今回の確約計画のポイント
今回のかたぎり塾の例では、
- 不当表示を再び行わない旨の取締役会決議
- 違反の疑いがある表示内容を一般消費者に周知する措置
- 再発防止のための社内体制整備
- 既に支払った入会金の一部を返金するなどの救済対応
- 上記措置の実施状況を消費者庁へ報告
同社が自発的に「不当表示を再び行わない」「不当表示を消費者に周知徹底する」「該当期間の入会金の一部を返金する」などの具体的措置計画を提出し、消費者庁の認定を受けたことで、確約手続が適用されました。
注意すべき表示の落とし穴
多くの企業が陥りがちな“表示の落とし穴”には、以下のようなものがあります。
- 「期限付き」「限定価格」
期間を設定して値引き・特典を訴求する場合は、必ず実際に期限切れで終了させる運用が必要。曖昧なまま延長を繰り返すと、期限商法として問題視される恐れがあります。 - 「最安値」「他社よりもお得」
価格比較を表示するなら、比較対象の根拠や時点を明確にし、情報を常に最新状態に保つことがポイントです。根拠のないまま「当社が一番お得です」とアピールすると“有利誤認”の疑いがあります。 - 「実力実績の誇張」
効果や実績を謳う場合は、エビデンスやデータをしっかり用意しましょう。「ダイエット効果を短期間で必ず実感!」のように絶対的な表現をするなら、裏付けが必要です。
不当表示のリスクと企業対策
(1) 企業ブランドイメージの低下
一度消費者庁の調査を受けると、実際の処分の有無にかかわらずネガティブな印象が広まるリスクは避けられません。
(2) 行政処分・返金コスト
消費者庁から措置命令を受けたり、確約手続に基づいて大規模な返金対応を求められたりする場合もあります。
(3) 他社との競争上の不利益
「誤解を招く宣伝をしている企業」として業界内で信頼を損ねる可能性も十分にあります。
(対策)
- 社内教育・マニュアルの整備
広告担当者だけでなく、商品企画・販売部門にも景品表示法の基本を共有する - 表示内容の定期チェックと更新
ウェブサイトや販促資料を定期的に見直し、実態と齟齬がないか確認 - 顧問弁護士や専門家への相談
グレーゾーンがある場合は早めに法律の専門家に確認し、トラブルを未然に防ぐ
丸の内ソレイユ法律事務所のサポート

当事務所では、日頃から企業が陥りがちな表示違反リスクを洗い出し、問題発生前の予防法務を強化するお手伝いをしています。
- 広告・販促物の事前チェック
- 社内研修のカスタマイズ研修
- 万一の際に備えた確約手続の書面作成サポート
景品表示法以外にも、企業法務全般のトラブル対応やコンプライアンス整備、契約書作成・レビューなどもご相談ください。
顧問契約のメリット

企業が景品表示法だけでなく、さまざまな法律リスクやトラブルに対して常に先回りした対応を図るには、継続的な法務サポートが欠かせません。
- いつでも気軽に相談できる
社内で疑問が生じた際に、すぐに専門家の意見を聞けるため、大きな問題へ発展する前に対策を講じることが可能です。 - 法改正への迅速なキャッチアップ
景品表示法をはじめ、法律は頻繁に改正が行われます。顧問契約を結ぶことで、最新の法改正情報を社内に共有し、スムーズに体制をアップデートできます。 - リスク分散とコスト削減
事後対応に比べ、未然防止の方がコストは圧倒的に低く抑えられます。継続的に専門家が関与することで、潜在リスクの発見と軽減が図れます。 - 経営判断のスピードアップ
新規プロジェクトやキャンペーンを立ち上げる際にも、法的リスクや契約関係を素早くチェックできるため、意思決定を加速させることが可能です。
まとめ
かたぎり塾の事例は「少しでも魅力的に商品・サービスをアピールしたい」という思いが、結果として法令疑義を招くケースの典型例といえます。企業の成長にはマーケティングや広告は欠かせませんが、「消費者に誤解を与えないか」を常に意識することが重要です。
今回の確約手続事例を機に、ぜひ貴社の広告・表示の在り方を見直してみませんか?万一のトラブルを防ぎ、消費者との信頼関係を築くための法務体制整備を、当事務所がしっかりサポートいたします。
「うちの表現は大丈夫かな……」と思われたら、どうぞお気軽にご相談ください。
当事務所が誠心誠意、貴社のビジネスを守るお手伝いをいたします。