東京都は、11月1日、美容液・育毛剤等を販売していた3事業者に対して、特定商取引に関する法律に基づき、通信販売業務の一部を3か月間停止するよう命じ、電話勧誘販売業務の改善を指示ました。同時に、3事業者の代表取締役(同一人物)に対し、停止を受けた通信販売業務を新たに開始することを、3か月間禁止しました。
3事業者の関係性
今回、処分を受けた株式会社TRIBE(トライブ社)、LIALUSTER株式会社(リアラスター社)、hairju株式会社(ヘアージュ社)は、代表取締役を共通にする会社です。
リアラスター社、ヘアージュ社は、いずれも、通信販売や電話勧誘販売において、自社を販売業者として表示していましたが、実際の販売業務はすべてトライブ社が行っているという関係性にありました(そのため、消費者は、リアラスター社又はヘアージュ社を契約先と認識していました)。
今回、東京都は、トライブ社とリアラスター社又はヘアージュ社が実質的に一体であり、連携共同して通信販売・電話勧誘販売を行っているとして、3社(及び代表取締役)に対して処分を行いました。
問題とされた行為
(1)広告表示義務違反
特商法は、通信販売を行うに際しては、販売価格や代金支払時期等、一定の事項を広告上、表示することを義務付けています。表示すべき事項には、契約の解除に関する事項も含まれるところ、本件ではこれに関する表示がないことが指摘されました。具体的には次のとおりです。
トライブ社とリアラスター社、トライブ社とヘアージュ社は、美容液又は育毛剤の継続回数のしばりのない定期購入について、「しばりのない定期購入」と謳って広告していました。この広告から誘導される申込画面からの申込が完了すると、定期購入の申込みを承諾した旨の文言を表示した別の販売サイト「サンクスページ」に遷移します。
この「サンクスページ」は、美容液又は育毛剤についてしばりのない定期購入の申込みを行った消費者に対してのみ表示され、「本ページ限定特典」や「お得なプランへの変更」として、「しばりのある定期購入」を広告するものであり、しばりのない定期購入の広告でうたっていた「定期縛りなし!」「返金保証付き」といった条件が「しばりのある定期購入」に変更することにより適用されなくなることについて、特典の表示に比して小さな文字で表示していました。
東京都は、「サンクスページ」における広告は、それまでの広告で用いていた「しばりのない」という表現と対比しやすい「しばりのある」という表現を用いていないことや、「最低〇回 (総額〇〇〇〇〇円/税込)のご継続をお約束いただく、・・・」と「しばり」とは別の表現を用いて表示したり、「しばりなし」の広告表示で使用した文字の大きさや見やすさと比べ格段に小さな文字で表示するなどしていたことをもって、消費者の誤認を惹起する表示を行っていたものと評価しました。
そして、「しばりのない」条件から「しばりのある」条件への変更は、「消費者が当初申込を行ったいつでも離脱できるという条件から、離脱に制限が生じることになるから、定期購入の契約の解除に関する事項にあたる」として、通信販売業者が行うべき広告表示義務に違反するものと判断しました。
その他、通信販売に関する業務の責任者として、従業者でもなく、通信販売に関する業務を全く行っていない者の氏名を表示していたことも指摘されています。
(2)誇大広告
今回各社が行っていた広告のうち、例えば次のような点について、誇大広告であると指摘されました。
・美容液(ナイアシンアミド及びグリチルリチン酸ジカリウムの有効成分が含まれる医薬部外品)との関係で、
「ナイアシンアミドの更なる強化に成功!」「進化系ナイアシンアミド」なる成分が含まれているかのような表示を行っていたこと
「深いシワ、隠れシミ、黒い毛穴、国内唯一の薬用成分で改善!」「たるんだフェイスラインごと深いシワを持ち上げる」「深いシワが“真皮から持ち上がる”ので、リフトアップにも高い効果を発揮します」等と表示をしていたこと
・「バナー広告」において、「●●●で大ヒット」「2023 年●●●で爆売れ」等と記載し、あたかも著名な大規模小売店舗等で取り扱いがあり、売れ行きが大変好調な商品であるように表示していたが、実際は、当該大規模小売店舗における育毛剤の販売実績はなかったこと
・しばりのない定期購入の販売サイトにおいて、初回商品の価格について、定期購入での販売実績のない価格を比較対象として表示していたこと
・「サンクスページ」において、定期購入での販売実績のない価格と比較して「いつまでもお得が続く」「長くお得なコースに変更」と表示していたこと
(3)電話勧誘販売との関係
電話勧誘販売との関係では、事業者に、消費者に対する一定の取引条件を記載した書面の交付義務が課されているところ、各社が消費者に対して交付していた書面に、事業者名等、契約担当者名、商品の数量(回数の約束のある場合の総量等)、契約の解除に関する内容等の記載がなかったことが指摘されました。
また、電話勧誘により契約を締結した消費者から、電話によりクーリング・オフの申出を受けた際にクーリング・オフの案内をせず、商品を受け取り使用するよう勧めたり、受け取らない場合でも商品代金相当額の支払いを求める旨を申し向ける等、解除を妨げる行為をしていたことも指摘がされました。
まとめ
今回の処分では、広告表示義務、誇大広告、電話勧誘販売における規制の違反など、様々な点で特商法違反が見られました。
本件では、特に処分を受けた3社が同一の代表取締役によって設立されたものであり、実質的な販売業務を担っていたトライブ社が他の2社と一体となって行ったものとして、トライブ社も含めての処分となったことがまず注目すべき点と言えます。
また、通信販売業者に課される広告表示義務違反として指摘された点は、最初の申込完了後に、当初しばりがなかった定期購入契約をしばりがある契約に変更するものであった点をとらえて、定期購入契約の解除に関する事項として評価された点も、今後の広告表示を考える上で参考になる処分と言えます。
誇大広告との関係では、存在しない有効成分が存在するかのような表示をしていることや、二重価格表示の比較対象とする価格が不適切であったこと、「バナー広告」において、「●●●で大ヒット」「爆売れ」などと表記していたことが指摘されました。こういった広告は、訴求力を高めようとするとつい作成しがちな広告ですが、このように処分を受ける事例がありますので注意が必要です。
また、今回処分を受けた会社のうち、ヘアージュ社については、令和5年に都内で消費者から700件を超える相談がありました。消費者とのトラブルが多くなるほど、特商法違反等で指摘や処分を受ける恐れは高くなります。
消費者とのトラブルを避けるためには、広告表示や顧客対応の上で消費者の誤解を防ぎ、法規制を遵守した上で、広告戦略を練ることが必要です。
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