1 はじめに
令和5年3月15日に独立行政法人国民生活センターが、『糖質を低減できるとうたった電気炊飯器の実際』と題する報道発表資料を公表しました。そして、炊飯器の広告と実際の性能とが異なっている物があることを指摘しており、景表法に違反する(優良誤認)恐れがあると報道されています。
「糖質カット」などと広告されると、健康やダイエットに気を使っている人の目を引きます。また、実際に、糖尿病等で糖質制限の食事をしている人からすれば、非常に有用な商品に映ると考えられます。実際、国民生活センターには、血糖値が変わらないといった訴えや糖尿病の人が使って大丈夫なのかといった相談が寄せられていたようです。
今回の報道発表資料は、消費者への情報提供、事業者への要望、行政への要望といったことが記載されていますが、仮に、消費者庁が、優良誤認の可能性があると考え、措置命令・課徴金納付命令を出そうと考えた場合、どのような流れで手続が進むのでしょうか。
2 手続の流れ
以下の図は、消費者庁のHPに載っている、景表法違反の調査の手順です。実際の調査は、消費者庁のみならず、都道府県、公正取引委員会が関与することもあります。ちなみに、都道府県は、措置命令を出すことはできますが、課徴金納付命令を出すことはできません。ですので、課徴金納付命令を出す必要がある場合には、消費者庁が主体となって動く必要があります。
また、上記の図を見ると分かるとおり、措置命令を出すための手続と課徴金納付命令を出すための手続は分かれており、課徴金納付命令の前に措置命令が出るという流れになっています。実際にも、措置命令が出された後、しばらく時間が経ってから、課徴金納付命令が出ている事案があります。
調査が行われ(実際には、消費者庁等が事業者に対して、資料や広告作成のフロー等の報告をするよう求めます。)、行政指導で対応できる事案であれば、行政指導をし、事業者に改善してもらうということで終わります。行政指導では終わらず、措置命令や課徴金納付命令に相当する事案の場合、更に、手続が進んでいくこととなります。
措置命令と課徴金納付命令は、別の行政処分となりますので、それぞれ弁明の機会が与えられています。つまり、不利益処分を受けるので、事業者に十分に反論の機会を設けているということになります。
3 不実証広告
優良誤認の手続においては、不実証広告という優良誤認特有の制度が設けられています。措置命令に関する不実証広告は景表法7条2項、課徴金納付命令に関する不実証広告は景表法8条3項に定められています。
不実証広告は、消費者庁等が事業者に対し、「当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めること」ができる制度のことです。そして、事業者が合理的な根拠を示すことができなかった場合、措置命令の場合には優良誤認とみなされ、課徴金納付命令の場合には優良誤認と推定されます。なお、みなされるというのは争う余地がなくなることを意味し、推定の場合には争う余地があるものの覆すのは大変です。
不実証広告における合理的根拠については、①提出された資料が客観的に実証された内容のものであること、②表示された効果、性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応していることといった要件を満たす必要があります。上記①については、試験・調査によって得られた結果や専門家等の見解又は学術文献を根拠とする必要があります。また、上記②については、例えば、試験結果と実際に使われる状況が異なっている場合には、要件を満たさないということになります。試験結果等や学術論文等は、実際の使用状況等と合致する必要があります。
4 最後に
今回、優良誤認の場合における措置命令や課徴金納付命令の手続の概要を説明しました。優良誤認の場合、不実証広告の制度がありますので、事業者が広告の裏付けとなる合理的な根拠を消費者庁等に示さなければなりません。広告を作成する際に、その根拠資料を準備することは一般的だと思いますが、根拠資料については、上記のとおり、客観的に実証された内容であることや当該内容と広告内容が合致しているかを十分に確認しておくことが重要でしょう。