サイトの制作を外部に委託する際に起こるトラブルとは?
ECサイト立ち上げの際、避けては通れないのが、サイトの制作です。自力で作ることができれば問題ありませんが、専門性が高いため、外部のサイト制作会社に委託することも多いでしょう。その際に起こり得るトラブルについて、ご紹介します。
納得できるデザイン・機能にしてもらえない
サイト制作を発注する際に、想定していたものと、いざ納品されてきたものが全く異なることがあります。例えば、サイトのTOP画面に新着情報を表示できる機能をつけてもらったとして、実際に納品されたものは、新着情報の表示はされるものの、該当ページへリンクを飛ばす機能がなく、新着情報の内容を確認しにくいものであるといったことがあります。
このように、発注者が想定しているものに及ばないものが納品されているのに、受注者から契約書に記載された業務は完了していますとして報酬を請求されるといったトラブルがあります。
サイト制作業務の委託は、民法上の請負契約に当たり、仕事が完了したら報酬請求権が発生します。仕事が完了したかどうかは、契約の際にきちんとこういう内容の仕事をしてくださいと伝えていたかどうかが重要になりますので、契約時に受注者ときちんと意思疎通しておくと同時に、その要望を形に残しておかなくてはなりません。
追加費用を請求された
当初、受注者側の営業担当からは、「融通利きます」と言われたため、これを信じて契約したところ、制作ディレクターとの初回打ち合わせで、要望を伝えると、仕様書記載のシステムを改修しなくてはならず、高額な追加費用が掛かると言われてしまったというケースもあります。
受注者側の営業担当と実際に作業する制作担当が異なるため生じるトラブルですが、当時の営業担当から話を聞こうとしても、退社済みと言われることも少なくなく、契約時の口頭のやり取りについて受注者側に主張するのは難しくなってしまいます。
納期遅れ
受注者側が、納期に大幅に遅れて納品してくることもあります。このようなときには、発注した会社としては、機会損失や代替作業のための人件費等の損害が発生しており、その損害について、受注者側に請求したいと思うかもしれません。しかし、実際には立ち上げる前のECサイトにおいて、機会損失でどれほどの損害が生じたのか、人件費を算定できるのかを立証することが難しく、リカバーできません。
納期が遅れることで、発注した会社側としては解除することもできますが、また他の受注者に、一からやり直すとなるとどれほど時間がかかるか分かりませんし、引継ぎもしっかり行われないこともあります。そのため、実際はなかなか解除という選択をとることができず、ずるずるとその受注者の納品を待つという事態もありえます。
著作権の帰属
納品物の著作権の帰属について、揉めることもあります。例えば、納品後、サイト内の地図のデータが欲しいと思い、受注者に対してドキュメントやデザインデータを求めたら、著作権は受注者にあるので、これを渡すには追加費用が掛かると言われたというトラブルがあります。発注者としては、当然に著作権も含めてもらえると思いこんでおり、著作権が別料金と聞くと、不意打ちのように感じることもあります。
これらのトラブルを回避するための対策とは?
上記のようなトラブルでサイト立ち上げ前に足踏みしたくはありませんよね?やはりトラブルをできるだけ回避するためには、契約書にきちんと発注したいことが記載されているのか、トラブルになった場合どういった対応をするのか、著作権等の権利関係はどうなるのかといったことについて確認する必要があります。
納得できるデザイン・機能にしてもらえない
委託業務の内容を特定する
納得デザインにしてもらえないことの理由の一つは、契約書上に、発注する会社の意向が記載されていないことにあります。受注者からは、契約書に記載がないので、行う必要がないと言われてしまうことから、発注内容は誰の目から見ても明らかにしておく必要があります。
もっとも、契約締結段階で、デザインの内容を全て記載することは不可能ですし、文字だけでは正確に伝わらないことが多いです。
そのため、契約書の中では「業務内容/使用は別紙のとおり」「別途仕様書にて合意する」とだけ記載しておき、契約書の別紙や別途の書面として、発注する仕事の業務内容や仕様を箇条書き、表など、どんな形式でも構わないので、具体的に言語化して記載したり、言語化が難しい場合、参考にしたいデザインを資料として添付したりすることをお勧めします。
これらにより、委託する業務の内容を具体的に特定することができます。ここで注意しておきたいのは、「別紙」は契約書につづるので、契約書と一体であることが明らかですが、契約書とは物理的に別になる書面で対応する場合には、「本書は契約書●条記載の「別途仕様書」に該当するものである」と一文入れておく必要がある点に注意が必要です。この一文を入れておかないと、契約書と仕様書との一体性が立証できないからです。
また、契約書の委託する業務には、「その他、上記各号に付随する一切の事項」という包括条項を入れておくことも必要です。契約時にあらゆる状況を想定して、委託業務の中に盛り込むのは不可能なため、当初発生することが予想できなかったものの、サイト制作のためにこれは不可欠だよねといった業務についても委託できるようにする趣旨です。
実際に裁判になった場合には、そのような業務がこの包括条項に該当するのかが争われますが、この条項がないと、そもそもそのような主張をすること自体が難しくなるので、入れておくことをお勧めします。
検収期間を長めにとる
通常、納品されたらそれで受注者の業務は終了ではなく、委託会社側で納品物を検査確認する作業(「検収」といいます。)を行います。
検収で、契約内容と異なる点が発覚すれば、それを受注者に伝えた上で、改善を求めることになります。契約書においては、検収期間をなるべく長めにとるようにする必要があります。
受注者からは、1週間程度の検収期間を提案されることも多いですが、担当者一人がチェックすれば足りるものもあれば、内容が複雑で他の関係部署のチェックが必要なものもあり、後者の場合、一週間では終わらない可能性があるでしょう。
誰のチェックが必要かについてもしっかり考えた上で、検収期間を定めなくてはならず、契約段階でそれが不確定の場合には、念のため長めに(例えば、1か月程度)とることをおすすめします。
検収期間を長めにとる意味は、履行の追完を求める際に、受注者側の対応が検収完了前と検収完了後とで変わってくるからです。法律上、検収完了前後で変わることはありませんが、通常検収が完了すると、仕事が完成したとして報酬を請求することができるようになります。仮に契約内容にそぐわない点が発覚した場合、検収完了前だと、受注者側もまだ報酬を支払ってもらっていないことから、できるだけ真摯に対応しなくては、というインセンティブが働くことになるため、検収完了が事実上影響してきます。
追加費用を請求された
結局は、当初委託した業務内容の範囲の問題にはなってしまいます。つまり、委託した業務の範囲外なら当初の契約の履行として求めることは難しく、別途追加費用を支払って動いてもらうことになります。では、その追加費用はどのようにして決めたらよいのでしょうか。
発注者側に何も資料がなく、受注者から発行される追加の請求書が来てそれに応じざるを得ないというのは、交渉力として弱くなってしまいます。そのため、契約段階で、各項目ごとの費用が分かるような見積もりの詳細をもらっておいた方が良いでしょう。金額算出の根拠資料をもらっておけば、追加費用算定に当たっても、妥当な金額を想定できることになります。
納期遅れ
受注者のプロジェクトマネジメント義務の存在
納期遅れを防止するためには、納期遅れが生じないような仕組みの契約にしておく必要があります。具体的には、受注者において、進捗管理、開発阻害要因の発見追及とそれに対する適切な処置を行う義務とともに、発注者に対して定期的な報告義務を課すことが重要です。
いってしまえば、受注者はサイト制作のプロですが、発注者は素人です。そのため、発注者側での確認事項等については、受注者が回答期限を設けたり、発注者の提案する仕様では期限内の完成が難しい場合、受注者が代替案を用意したりと、納期に間に合わせるためには受注者の能動的なアクションが必要になります。
これらの能動的なアクションを課す義務を、プロジェクトマネジメント義務といいます(民法上、請負契約にはこのような義務はありませんが、裁判例ではこれを認めたものがあります(東京地裁平成16年3月10日判決))。契約書にこれらの義務を明記することで、受注者側の能動的なアクションを期待できます。
また、受注者側の事情で納期が遅れた場合の違約金の定め(一日当たり委託料×●%)も入れておくと実効性あります。
発注者の協力義務の履行にも注意
納期遅れの防止のために、プロジェクトマネジメント義務を定めておけば安心でしょうか。一概にそうとは言えません。裁判例の中には、納期遅れの責任について、発注者側の非協力的な態度を問題視したものもあります(東京地裁平成16年3月10日判決)。
発注者において、社内の意見を統一して受注者に明確にそれを伝えたり、受注者からの求めに応じて必要な資料を提供しなくてはならず、これらの協力義務を怠った場合には、過失相殺といって、一部発注者側の責任とされてしまいますので、注意が必要です。
著作権の帰属
著作権、著作者人格権は誰に帰属する?
Webサイト制作には、プログラム、ドキュメント、写真やイラストといった複数のコンテンツが制作されます。それらは、著作物に当たることが多く、著作権や著作者人格権について、取決めをしておかないとトラブルの元になります。
まず、著作権、著作者人格権は、著作物を作った人に権利が帰属します。ただし、従業員が会社のために著作物を創作した場合、その会社が著作者となります。そのため、コンテンツの著作権及び著作者人格権は、基本的に受注者に権利が帰属します。
Webサイトの制作を発注する以上は、これらの権利についても受注者から取得したいですよね。契約書上特に記載がない場合には、発注者に著作権が移転しませんので、著作権の移転について、きちんと契約書に明記するようにしましょう。記載がないため、著作権の移転を受けたかったら追加料金を支払えと言われるケースもあるため、注意が必要です。
著作権移転条項の注意点。著作者人格権への対応は?
では、その著作権移転の条項ですが、単に「著作権は、成果物納入時に発注者に移転する」とだけ記載してあっても足りません。著作権法第27条(翻案権)、同法第28条(二次的著作物の利用)については、契約書に特にこれらの権利が移転することを明記しないと、移転しないことになります(著作権法第61条第2項)。
著作権法第27条の翻案権とは、著作物を作り変える権利、同法第28条の二次的著作物の利用とは、作り変えられた著作物についても権利を有することを規定したもので、これらは、著作権の根幹となる特に重要な権利とされているため、これらを移転させる際には、契約書への明記が必要とされております。
そのため、「成果物の著作権(著作権法第27条及び第28条に定める権利を含む)は発注者に移転する」と記載することが大事です。
なお、著作者人格権については、権利を移転することができません。そのため、著作者人格権については、受注者が発注者に対して、権利行使をしない旨の合意をしておく必要があります。
最後に
これらのトラブルを事前に防ぐためには、締結前に契約書をしっかりと確認することが不可欠です。契約書は、ご自身ではなかなか内容を理解できないこともあるかと思いますので、不安があるのであれば、一度弁護士にご相談されることをおすすめします。