「日やけ後のほてりを抑える」「雪やけによる赤みをケア」――こうした訴求は、夏やウィンタースポーツのシーズンを中心に、消費者からのニーズが非常に高い表現です。しかし広告でこれらをうっかり使用すると、薬機法違反や行政指導の対象となる可能性があることをご存知でしょうか?
特に、薬用化粧品(医薬部外品)の広告では、あらかじめ承認された効能効果の範囲に沿った表現しか許されないという厳格なルールがあります。本記事では、「日やけ・雪やけ後の肌荒れ」という表現が薬機法上どのように扱われているのか、実務で気をつけるべきポイントを明確にし、薬事・広告担当者が安心して使える表現ルールを整理します。

はじめに:「日やけ後のほてり」表現が注目される背景
▶季節ニーズとともに高まる「日やけケア」訴求
夏の紫外線対策やウィンタースポーツによる雪やけ対策として、「日やけ後の肌ケア」は年々注目度を増しています。中でも、「日やけ・雪やけ後のほてりをケア」「赤みや熱感をやわらげる」といった表現は、消費者の共感を得やすく、広告訴求力の高いキーワードとなっています。とくに薬用化粧品(医薬部外品)では、「効果がある」と信じてもらいやすい反面、その広告には薬機法に基づく厳しいルールが存在します。
▶表現次第で薬機法違反となるリスクも
薬用化粧品は、医薬部外品として厚生労働省に承認された**「効能効果の範囲内」での表現が義務付けられており、それを逸脱すると薬機法違反となる可能性があります**。さらに、文言によっては「医薬品的効能の誤認」とみなされ、都道府県からの行政指導や改善要請、場合によっては景表法違反の指摘を受けることもあります。
▶本記事が対象とする読者と目的
本記事では、「日やけ・雪やけ後の肌荒れ」を広告でどう表現できるのかを明確にし、薬用化粧品の表現に関する法的ルール・行政の運用・NG/OK事例を実務視点で整理します。対象は、化粧品・医薬部外品の広告制作・薬事管理・法務に関与するご担当者様です。
薬用化粧品における「効能効果」の表示ルールとは
▶医薬部外品における効能表示の原則
薬用化粧品(医薬部外品)は、厚生労働省が認めた特定の有効成分を配合し、限定された効能効果を表示できる製品です。
しかし、「医薬部外品」であるからといって自由な表現が許されるわけではなく、効能効果の範囲と文言は、製品ごとに承認された範囲内に限定されます。
そのため、広告等で表示できる内容も、承認された効能効果またはその補足説明にとどめる必要があります。
▶厚生労働省の「効能効果例示表」とは
広告・表示での参考基準となるのが、日本化粧品工業連合会が作成している、「化粧品等の適正広告ガイドライン」の化粧品の効能効果の範囲表です。この表は、化粧品において使用できる効能効果56項目が記載されており、広告審査・薬事チェックの際の基準資料として広く使われています。
当該表に含まれる効能であれば、「防ぐ」「抑える」「防止する」といった表現が可能ですが、「治す」「改善する」など医薬品的な表現は不可となります。
▶暗示的表現・連想表現への注意点
たとえ直接的に医薬品的な文言を用いなくても、「熱を鎮める」「赤みを消す」などの暗示的に効能を訴える表現は、医薬品的効能と判断される可能性があります。
また、「〇〇成分が肌をクールダウン」などの技術訴求も、消費者の誤認につながる場合は薬機法違反となるおそれがあります。
そのため、広告制作の際には文字どおりの意味だけでなく、文脈・印象・消費者の受け取り方まで含めた判断が求められます。
「日やけ・雪やけ後のほてり」は使用可能な効能表現
▶厚労省の例示表に明記された効能効果の一つ
薬用化粧品(医薬部外品)では、「日やけ・雪やけによる肌荒れを防ぐ」「日やけによるしみ・そばかすを防ぐ」という表現は、認められた効能効果の一つです。
そのため、製品ごとの承認書(製造販売承認書など)にこの効能が含まれていれば、広告やパッケージ上でもそのまま使用することが可能です。
実際、医薬部外品の化粧水やジェル、クリームなどで「日やけ・雪やけによる肌荒れを防ぐ」といった記載が見られます。ただし注意すべきは、「表現そのものはOKでも、製品ごとに承認された効能の範囲を超えてはいけない」という点です。
▶表現の幅:「防ぐ」はOK、「改善する」はNG
薬機法上、医薬部外品は「予防」的な効能を表示することは認められていても、「治療」や「改善」といった表現は不可です。
したがって、「日やけ後の肌荒れを防ぐ」「抑える」といった文言はOKですが、
- 「日やけの赤みを取り除く」
- 「炎症を鎮めてほてりを改善する」
といった表現は、医薬品的効能を連想させるためNGとなります。
▶効能範囲に基づいた表現調整が必要
仮に製品の有効成分が「グリチルリチン酸ジカリウム」など抗炎症系成分を含んでいたとしても、承認されていない効能効果を広告で訴求することはできません。
広告文案では、「承認された効能+消費者に誤認を与えない範囲での補足説明」にとどめ、効果を過度に演出する表現は避けるべきです。
NGとなる表現例とその理由
▶「治す」「鎮める」などは医薬品的効能とみなされる
薬用化粧品(医薬部外品)の広告で最も注意すべきなのは、医薬品的効能を暗示・誤認させる表現です。
たとえば、「日やけによる赤みを治す」「炎症を鎮める」「肌温度を下げる」「即効でほてりを解消」などの表現は、治療や改善の効果を強く印象づける表現とされ、薬機法違反と判断される可能性があります。
医薬部外品は“効果がある”ことを訴求できる点が魅力ですが、だからこそ「どこまでが予防で、どこからが治療なのか」の線引きが重要です。
「防ぐ」「抑える」「ケアする」といった表現にとどめることが基本ルールとなります。
▶消費者の“受け取り方”が違反判断のポイントに
薬機法の運用では、「表現内容が実際に医薬品のような効果を有しているかどうか」ではなく、その広告を見た消費者がどう感じるか=誤認可能性があるかどうかが判断基準となります。
たとえば以下のような表現はリスクが高く、避けるべきです:
- 「日やけによる炎症をすばやく鎮める」
- 「熱を吸収して冷却、赤みを取り除く」
- 「日やけでダメージを受けた細胞を修復」
これらは一見キャッチーでも、医薬品に近い効果を想起させるため、行政指導の対象となるおそれがあります。
▶科学的な根拠があってもNGになる理由
たとえ自社製品に科学的な根拠や試験データがあったとしても、それが医薬部外品として承認された効能範囲を超えていれば広告では使えません。
薬機法では「裏付けの有無」よりも「許可された効能・文言であるかどうか」が優先される点にも注意が必要です。
表現チェックの実務対応:広告・法務・薬事の連携
▶表現リスクを見逃さないための部門連携
薬用化粧品の広告表現は、「効果を伝えたい」広告・マーケティング部門と、「法令遵守を徹底したい」薬事・法務部門の間で、意見がぶつかりやすい領域です。
特に「日やけ・雪やけ後のほてり」のような、表現のニュアンスでグレーゾーンになりやすい効能訴求では、社内での明確な合意形成が欠かせません。
そこで重要になるのが、広告制作前から部門横断で協議し、薬機法・景表法に基づいたチェックフローを整備することです。
▶NGワード集・チェックリストの導入
実務上の表現チェックには、事前に共有された「NGワード集」「表現ガイドライン」「広告チェックリスト」などのツールが有効です。
たとえば、「治す」「鎮める」「赤みを消す」などの使用不可表現を一覧にし、さらに「許容される代替表現例」も併記することで、制作現場でも判断がしやすくなります。
加えて、製品ごとに承認されている効能効果の一覧や、使用可能な表現テンプレートを社内ポータル等で共有することで、属人的なチェックを回避できます。
▶広告文案の最終確認と記録の整備
最終的な広告文案は、薬事または法務部門が薬機法・景表法両面からレビューし、記録を残す運用が望ましいとされます。
指摘事項や修正理由、承認済みの効能との照合結果などを残しておくことで、万が一行政からの問い合わせや指導があった場合にも、社内判断の正当性を裏付ける材料となります。
よくある誤解と相談事例
▶「日焼け止めと一緒に使えるから表現してもよい」は誤解
多くの企業から寄せられる相談の一つに、「UVケア製品と一緒に使う前提だから“日やけ後の肌にやさしい”と書いても問題ないですよね?」という誤解があります。
しかし薬機法の観点では、「製品の組み合わせ」ではなく、「当該商品単体として認められている効能効果の範囲」でしか訴求できません。
たとえ紫外線対策との併用が想定されていても、当該薬用化粧品の承認効能に「日やけ後の肌荒れ防止」が含まれていない限り、その表現はNGです。
▶「社内試験で効果が出たから表現してもいい」はNG
「自社でパッチテストやユーザーテストを実施し、“日やけ後の赤みが減った”というデータがある」というケースもよくあります。
しかし、薬機法においては、試験データが存在しても、それが医薬部外品として承認された効能を超えるものであれば広告では使用不可です。
とくに「赤みを取る」「鎮める」「すぐに効く」などの表現は、医薬品的とみなされやすく、行政のチェック対象となります。
▶消費者からの誤解によるクレーム事例も
ある企業では、「日やけ後の肌にやさしい」と表現した広告を見た消費者から、「これは日焼けの炎症を治す化粧品だと思って買った」との問い合わせが入り、誤認を招いたとして景表法上の優良誤認に該当するリスクを指摘された事例もあります。
広告表現は単なるキャッチコピーではなく、法令に基づいた事実と根拠が求められる領域です。
「表現できること」と「売れる表現」は必ずしも一致しないことを、現場では常に意識する必要があります。
弁護士法人丸の内ソレイユ法律事務所による支援体制

▶薬機法・景表法に精通した実務対応型のリーガルチェック
薬用化粧品の広告は、製品の特性や販売戦略を活かしつつも、薬機法や景品表示法の制約を正確に踏まえた表現設計が不可欠です。
弁護士法人丸の内ソレイユ法律事務所では、医薬部外品・化粧品の広告表現に関する豊富な実務経験をもとに、企業の広告文案やキャンペーン施策について法的観点からレビュー・改善提案を行っています。
特に「日やけ・雪やけ後の肌荒れ」といった表現は、消費者ニーズは高い一方で、法的リスクも生じやすい領域です。表現の一語一句が行政指導につながることもあるため、事前のチェック体制と明確な判断基準の整備が重要です。
▶表現審査から社内体制整備まで一貫対応
当事務所では、以下のような幅広い支援をご提供しています:
- 薬機法・景表法に基づく広告表現レビュー
- 承認効能に即した表現の代替提案
- 社内広告審査フローの整備と継続支援
- 薬機法研修・ガイドライン作成の支援
- 行政対応時の助言および文書作成補助
法務・薬事部門だけでなく、広告・マーケティング部門とも連携可能な柔軟な対応体制を整えております。
▶表現に迷ったら、早めのご相談がカギです
日やけ後の肌ケア訴求は、消費者への訴求力が高い一方で、表現ひとつで薬機法・景表法違反となる可能性もある繊細な領域です。
「この表現は使える?」「社内で意見が割れている」「行政から指導が入る前にチェックしておきたい」──
そんな時は、薬機法と広告表現の実務に精通した当事務所へ、ぜひお気軽にご相談ください。
