「今の契約書や利用規約が、本当に法律を守れている自信がない」
「消費者保護のルールが厳格化していると聞くが、何をすべきかわからない」
消費者契約法・特定商取引法・景品表示法など、いわゆる「消費者保護法」とされる複数の法律に違反すると、行政処分や損害賠償請求に加え、社会的信用の失墜といったリスクが生じます。このようなリスクを考えると、日々の業務や広告運用が適法かどうか不安になる人は多いのではないでしょうか。
本記事では、事業者が絶対に押さえておくべき「消費者契約法」と「特定商取引法」の重要ポイントや、違反を防ぐための実務対策を徹底解説します。複雑な法規制を把握し、行政処分や炎上リスクを未然に防ぐためのアクションを取るためにも、ぜひ参考にしてみてください。
消費者保護に関する法律に違反しないか不安な場合は、専門家に相談することが大切です。丸の内ソレイユ法律事務所は、企業の薬機法・広告・新規事業の法規制対応に詳しい弁護士が在籍しています。個々の状況に合わせて適切な解決策をご提案できるため、まずはお気軽にご相談ください。

消費者保護法とは?基礎知識を解説

ビジネスを行う上で避けて通れないのが、消費者を守るための法規制です。ここでは、法律の全体像と、なぜ規制が必要とされるのかという根本的な理由を解説します。
消費者保護を目的とした法律の「総称」
実は「消費者保護法」という名称の単一の法律は存在しません。消費者の権利を守り、事業者との公正な取引を実現するための複数の法律をまとめた「総称」です。
具体的には、以下の法律群が消費者保護法制の中核を担っています。
- 消費者契約法:すべての消費者契約に適用される民事ルール
- 特定商取引法:通信販売や訪問販売など特定の取引類型を規制
- 景品表示法:広告や表示の適正化を図る法律
- 製造物責任法(PL法):製品の欠陥による損害賠償を定める法律
- 個人情報保護法:消費者のプライバシー情報の取り扱いを規制
時代の変化に伴い、デジタルプラットフォーム取引透明化法のような新しい法律も次々と整備されています。
一つの法律を守っていても、他の法律に抵触すれば企業としての責任を問われるため、包括的な理解が不可欠です。
消費者保護法が必要とされている理由
法律で消費者が手厚く保護されている背景には、事業者と消費者の間に存在する「格差」があげられます。両者の間には、交渉力や情報量において構造的な不均衡が存在するためです。
事業者と消費者の間に生じる具体的な格差は、以下のとおりです。
| 格差の種類 | 具体的な内容 |
| 情報の質と量の格差 | 事業者は商品・サービスの専門知識を持つが、消費者は限定的な情報しか持たない |
| 交渉力の格差 | 事業者は契約条件を一方的に設定できるが、消費者は「同意するか否か」の二択になりがちである |
| 経済力の格差 | トラブル発生時、個人である消費者は資金面や対応力で事業者に劣る場合が多い |
この格差を埋め、対等な取引環境を作るためには、法規制が欠かせません。仮に消費者が安心して買い物ができない社会になれば、経済活動自体が縮小してしまいます。
事業者がこうした法の趣旨を無視し、格差を利用した一方的な利益追求を続ければ、悪評が広まり、結果として市場から排除されるリスクが高まります。
法令遵守は単なる義務ではなく、公正な競争環境を守り、自社のビジネスを持続させるための基盤といえます。
消費者保護の2大法律「消費者契約法」と「特定商取引法」とは

消費者保護法の中でも、事業者にとってとくに重要なのが以下の2つです。
- 消費者契約法
- 特定商取引法(特商法)
両者は目的や規制の対象が異なるため、明確に使い分ける知識が求められます。それぞれの特徴を把握しておきましょう。
①消費者契約法とは|不当な勧誘や契約条項から消費者を守る法律
消費者契約法は、労働契約を除き、「事業者が行う事業としての取引」と「個人として商品・サービスを利用する消費者」との間で締結される幅広い契約を対象とする法律です。不当な勧誘による契約の取消しや、消費者に一方的に不利な契約条項の無効を定めています。
| 対象 | あらゆる業種・業態の契約(店舗販売、オンライン契約など問わず)※ |
| 効果 | 契約の「取消し」や条項の「無効」という民事上の効力を発生させる |
| 特徴 | 具体的な勧誘行為や契約内容の公平性を重視する |
※労働契約は適用除外(消費者契約法第48条)
たとえ消費者が契約書にサインをしても、法律違反があればその合意は取り消されたり、無効となります。
解約時の違約金が不当に高額な場合はその条項自体が無効となる可能性があるなど、「最終的な安全装置」として機能するのが特徴です。
②特定商取引法(特商法)とは|トラブルが起きやすい特定の取引形態を規制し消費者を守る法律
特定商取引法は、トラブルが起きやすい「特定の販売形態」をターゲットにした法律です。訪問販売や通信販売(ECサイト)などが対象となり、行政規制によって事業者の行為を制限します。
| 対象 | 通信販売、電話勧誘販売、訪問販売など7つの類型 |
| 効果 | 行政処分(業務停止命令など)や刑事罰の対象となる |
| 特徴 | クーリングオフ制度や広告記載事項など、手続き面での規制が強い |
対象となる取引類型は、消費者が熟慮する時間がなかったり、不意打ち的な勧誘を受けたりしやすいため、厳しく監視されています。
EC事業者がサイト上に「特定商取引法に基づく表記」を掲載するのは、この法律による義務であり、事業者の素性を明らかにするための措置です。
関連記事:弁護士による特商法解説
両者の違いと関係性をわかりやすく整理
2つの法律は、アプローチの仕方が異なります。
以下の表で違いを整理し、自社のビジネスがどのように関わるかを確認しましょう。
| 比較項目 | 消費者契約法 | 特定商取引法 |
| 規制の性質 | 民事ルール(契約の効力を否定) | 行政規制(国が監督・処分) |
| 適用範囲 | すべての消費者契約 | 指定された7つの取引類型のみ |
| 主な違反効果 | 契約の取消し・無効 | 業務停止命令・指示・罰則・クーリングオフ(通信販売を除く) |
| 保護の視点 | 契約内容・勧誘プロセスの不当性 | 販売方法・勧誘方法の特殊性 |
事業者は、この両方の法律を同時に遵守しなければなりません。
たとえば、通販で誇大広告を行えば特商法違反となり、その広告を信じて購入した消費者は消費者契約法に基づいて契約を取り消せます。
特商法の表記義務を守っていても、契約条項が不当であれば消費者契約法違反となるため、複合的なリスク管理が必要です。
消費者契約法で事業者が注意すべきポイント

消費者契約法に違反すると、契約自体が取り消されたり、条項が無効になったりするリスクがあります。
ここでは、実務上特に注意すべき4つのポイントを解説します。
- 1.契約時に禁止されている行為(不当勧誘など)
- 2.契約の取消しが認められるケース
- 3.誤認や困惑を防ぐための表示・説明の工夫
- 4.トラブルを防ぐための契約書・同意画面の作成
違反にならないためにも、ぜひ参考にしてみてください。
1.契約時に禁止されている行為(不当勧誘など)
事業者は、契約締結の過程で以下のような行為を行わないよう厳重な注意が必要です。
- 不実告知:重要事項について嘘を告げる
- 断定的判断の提供:不確実なことを断定する
- 不利益事実の不告知:不利益な情報を故意に隠す
- 退去妨害:帰りたいという消費者を帰らせない
- 居座り:消費者が帰ってほしいと意思表示しているのに居座り続ける
たとえば、重要事項について嘘を告げることや、「絶対に儲かる」「必ず成功する」など不確実なことを断定することは禁止されています。また、利益になることばかり伝え、不利益な情報を故意に隠すことも禁止です。
事業者側に「騙すつもりはなかった」という主観的な事情があっても、消費者が誤認すれば取消しの対象となります。
営業担当者個人の暴走であっても会社としての責任が問われるため、トークスクリプトの管理と社員教育は必須です。
2.契約の取消しが認められるケース
事業者の不当な勧誘が原因で「誤認」または「困惑」した場合、消費者は契約の取消権を行使できます。
取消権の行使期間は、追認できる時から1年間、契約締結から5年間です(消費者契約法第7条)。ただし、霊感などによる知見を用いた告知に係る勧誘(消費者契約法第4条第3項第8号)の場合は、追認できる時から3年間、契約締結時から10年間となっています。
取消し対象となる具体例は、以下のとおりです。
- 「中古車なのに事故歴なしと説明された」(不実告知による誤認)
- 「将来の値上がりは確実と勧誘された」(断定的判断による誤認)
- 「長時間勧誘され、恐怖を感じて契約した」(困惑)
- 「恋愛感情を利用して高額商品を販売された」(デート商法)
契約が取り消されると、事業者は受け取った代金を全額返還しなければならず、すでに提供したサービスの対価も請求できない場合があります。
一度納品やサービス提供が完了していても、原状回復義務が生じるため、経営上の大きなキャッシュフローリスクとなります。
出典:消費者庁|消費者契約法逐条解説 第7条(取消権の行使期間等)
3.誤認や困惑を防ぐための表示・説明の工夫
トラブルを未然に防ぐためには、消費者が正しく理解できる情報の提供が不可欠です。専門用語が多いサービスや、仕組みが複雑な金融商品などを扱う場合は注意しましょう。
とくに、以下の3点には注意が必要です。
- 文字サイズと配置
- メリット・デメリットの併記
- 確認フローの設置
重要な注意点は、目立つ場所に読みやすい大きさで記載することが大切です。また、利点だけでなく、リスクや条件も隣接して明記しましょう。
Web申し込みの場合、最終確認画面で重要事項を再表示することも重要です。
「書いてあるから読まないほうが悪い」という理屈は、消費者契約法の下では通用しません。UI/UXの設計段階から法務視点を取り入れましょう。
4.トラブルを防ぐための契約書・同意画面の作成
契約書や利用規約(ToS)に「消費者の利益を一方的に害する条項」が含まれている場合、その部分は無効となります。
無効となる内容と修正の方向性は、以下のとおりです。
| 条項の種類 | 無効となる内容 | 修正の方向性 |
| 損害賠償 | 事業者の損害賠償責任を一切免除する条項 | 軽過失の場合は上限を設ける等に修正 |
| 解除権 | 事業者の都合で一方的に解約できる条項 | 解除事由を具体的に列挙する |
| 違約金 | 平均的な損害額を超えるキャンセル料の設定 | 業界標準や実損額に基づく設定にする |
出典:消費者庁|第2節 消費者契約の条項の無効(第8条~第10条)
利用規約は事業者を守る盾の役割を果たしますが、不当な条項が含まれていると、いざという時にその効力が否定される恐れがあります。
長期間変更していない場合や、過去のひな形をそのまま使用している場合は、直ちに見直しましょう。
特定商取引法(特商法)で事業者が注意すべきポイント

特商法は、消費者トラブルが頻発する販売形態に対して厳しい規制を敷いています。行政処分の対象となり得るため、コンプライアンス遵守の徹底が重要です。
ここでは、実務上特に注意すべき4つのポイントを解説します。
- 1.特商法の対象となる取引の種類(通信販売・訪問販売など)
- 2.広告表示や勧誘で禁止されている行為
- 3.返品・クーリングオフ制度の取り扱い
- 4.通販サイト・EC事業者が守るべき表示義務(特定商取引法に基づく表記)
違反にならないためにも、ぜひ参考にしてみてください。
1.特商法の対象となる取引の種類(通信販売・訪問販売など)
特商法は、以下の7つの取引類型を規制対象としています。自社のビジネスモデルがどれに該当するかを正確に把握することが大切です。
| 1.訪問販売 | 営業所等以外の場所での契約(キャッチセールス・アポイントメントセールス含む) |
| 2.通信販売 | Webサイト・カタログ・テレビショッピングなどからの申込み |
| 3.電話勧誘販売 | 事業者が電話をかけて勧誘を行い、郵便等で契約するもの |
| 4.連鎖販売取引 | いわゆるマルチ商法・ネットワークビジネス |
| 5.特定継続的役務提供 | 「エステティック・美容医療・語学教室、家庭教師・学習塾・結婚相手紹介サービス・パソコン教室」の7つの役務に関する、長期・継続的で高額なサービス契約 ※出典:消費者庁|特定商取引法ガイド(特定継続的役務提供) |
| 6.業務提供誘引販売取引 | 「仕事を提供するので機材を買って」などの内職商法 |
| 7.訪問購入 | 事業者が自宅等を訪問して物品を買い取る(押し買い規制) |
なかには、SNSで誘引して電話でクロージングする場合など、境界線が曖昧なケースもあります。自社の販売フロー全体を見直し、どの規制が適用されるかを適切に判断しましょう。
関連記事:電話勧誘販売における特商法上の注意点~誘引段階の行為規制
2.広告表示や勧誘で禁止されている行為
特商法では、消費者を惑わせる広告や強引な勧誘を禁止しています。主な禁止行為は、以下のとおりです。
| 誇大広告の禁止(特定商取引法第12条) | 「著しく事実に相違する表示」や「実際より著しく優良誤認させる表示」の禁止 |
| 未承諾者への電子メール広告(特定商取引法第12条の三) | 同意を得ていない消費者へのメルマガ配信禁止(オプトイン規制) |
| 再勧誘の禁止(特定商取引法第3条の二) | 一度断った消費者に対し、執拗に勧誘を継続することの禁止(訪問・電話勧誘) |
違反が悪質な場合、法人だけでなく代表者や担当役員個人に対しても業務停止命令が出されることがあります。
違反しないよう、社内マニュアルを整備したり、顧客管理システム(CRM)を組み込んだりしましょう。
3.返品・クーリングオフ制度の取り扱い
特商法の最大の特徴は、契約後一定期間内であれば無条件で契約解除できる「クーリングオフ制度」です。取引類型によって、以下のように適用期間が異なります。
| 取引類型 | クーリングオフ期間 | 備考 |
| 訪問販売・電話勧誘 | 書面受領日から8日間 | 期間内は無条件解約可 |
| 連鎖販売・業務提供誘引 | 書面受領日から20日間 | 期間が長く設定されている |
| 通信販売(ECなど) | 制度適用なし | 独自の返品特約の表示義務あり |
通信販売には法的なクーリングオフ制度がありません。ただし、サイト上に「返品の可否・条件」を表示していない場合は、商品到着後8日以内であれば返品が可能という特約が自動適用されます(特定商取引法第15条の3)。
「返品不可」とする場合は、その旨をわかりやすく表示しなければ購入者からの返品を拒否できなくなるため、注意が必要です。
関連記事:インターネット販売における「返品に関する」法律や規定は?
4.通販サイト・EC事業者が守るべき表示義務(特定商取引法に基づく表記)
ECサイトやランディングページを運営する場合、「特定商取引法に基づく表記」のページ設置が義務付けられています。
以下の項目は必須記載事項であり、漏れがあると法令違反となるため注意が必要です。
- 事業者の氏名(名称)、住所、電話番号
- 代表者または責任者の氏名
- 販売価格・送料・その他負担すべき費用
- 代金の支払時期・支払方法
- 商品の引渡時期
- 返品・交換の可否と条件(返品特約)
近年は、サブスクリプション(定期購入)に関する規制も強化されました。「初回無料」と大きく打ち出しながら、実際は数か月の継続が条件であるような場合、その条件を同等の文字サイズで分かりやすく表示する必要があります(特商法第11条第5号)。
消費者庁のガイドラインは非常に細かく規定されているため、常に最新のルールに準拠しているか定期的なチェックが欠かせません。
自己判断をせず、弁護士など専門家によるリーガルチェックを受けるようにしましょう。
関連記事:サブスクリプション契約と特商法

消費者保護法に違反した場合のリスクと罰則

「少しぐらいバレないだろう」という安易な判断が、企業の存続を揺るがす事態を招くことがあります。消費者保護関連法規への違反は、単なるルールの無視ではなく、社会的な背信行為とみなされるためです。
ここでは、事業者が直面する法的・社会的リスクを以下の3つの側面から解説します。
- 行政処分(業務停止・指導・勧告など)を受ける可能性がある
- 刑事罰・民事責任を問われる危険性がある
- 企業イメージや顧客からの信頼を損なう恐れがある
社内で周知できるよう、違反した場合のリスクについて理解を深めましょう。
行政処分(業務停止・指導・勧告など)を受ける可能性がある
行政処分とは、消費者庁や経済産業局、都道府県などの監督官庁が公権力を持って行う制裁措置です。違反の程度により、段階的な処分が下されます。
具体的な処分の内容は、以下のとおりです。
| 処分の種類 | 内容 | 事業への影響度 |
| 指示・勧告 | 違反行為の改善を求める命令 | 体制見直しが必要だが営業は継続可 |
| 公表 | 違反事業者名や違反内容を世間に公開 | ネット上に半永久的に記録が残る |
| 業務停止命令 | 2年以内の業務停止(特定商取引法第15条第1項) | 事実上の倒産・廃業危機に直結 |
| 役員解任命令 | 違反に関与した役員の辞任要求 | 経営体制の刷新を強制される |
とくに「業務停止命令」が出されると、新規の勧誘だけでなく広告の掲載や契約申込みの受付もできなくなります。キャッシュフローが完全に止まるため、多くの中小企業にとって致命的なダメージとなるでしょう。
刑事罰・民事責任を問われる危険性がある
行政処分に加え、悪質なケースでは警察による捜査が入り、刑事罰が科される可能性があります。「法人」だけでなく、実行行為者である「従業員」や「代表者個人」も処罰の対象となる両罰規定が一般的です。
たとえば、特定商取引法に違反した場合、以下のような罰則が存在します。
- 個人:最大3年以下の懲役または300万円以下の罰金、または併科(特定商取引法第70条)
- 法人:違反行為により異なるが、最大で3億円以下の罰金(特定商取引法第74条)
民事責任においては、契約の取消しによる代金返還義務に加え、不法行為に基づく損害賠償請求を受けるリスクがあります。
また、消費者裁判手続特例法に基づく被害回復手続(特定適格消費者団体による二段階訴訟)が提起された場合、多数の消費者から損害賠償を求められ、賠償総額が多額に及ぶ可能性もあるでしょう。
企業イメージや顧客からの信頼を損なう恐れがある
現代において最も恐ろしいのが「レピュテーションリスク(風評被害)」です。行政処分を受けた事実は消費者庁のWebサイトで公表され、ニュースやSNSで瞬く間に拡散されます。
違反事実が拡散されることで、以下のようなリスクが考えられるでしょう。
- 検索エンジンの汚染:社名で検索すると「違反」「詐欺」「業務停止」がサジェストされる
- 取引停止:銀行からの融資引き上げや、取引先からの契約解除
- 人材流出:既存社員の退職や、新規採用の困難化
一度失墜したブランドイメージを回復するには、数年から数十年の歳月を要することも珍しくありません。
「法律違反をする企業」というレッテルは罰金を支払っても消えないため、違反してからの対処だけでなく、「違反しない対策」を徹底することが大切です。
消費者保護法違反を防ぐために重要な対策

リスクを回避して健全な経営を続けるためには、受け身ではなく能動的な対策が必要です。現場任せにせず、経営層主導でコンプライアンス体制を構築しましょう。
主な対策は、以下のとおりです。
- 1.現在の契約書・利用規約・広告表示を総点検する
- 2.マニュアルを整備して社内教育・研修の実施を徹底する
- 3.広告・表示内容の法務チェック体制をつくる
- 4.クレーム対応・苦情処理のルールづくりをする
- 5.不安な場合はすぐ弁護士に相談する
以下、それぞれ具体的に解説します。
1.現在の契約書・利用規約・広告表示を総点検する
まずは現状の把握から始めます。
創業時に作成した古い契約書・広告や、テンプレートを流用しただけの利用規約を使い続けていないかを確認しましょう。法改正は頻繁に行われているため、数年前の規約では現在の法律に対応できていない可能性が高いです。
以下のチェックリストを参考に、現在の契約書・利用規約・広告表示を総点検しましょう。
- 消費者に一方的に不利な免責条項はないか(「一切責任を負わない」など)
- 解約時の違約金は、平均的な損害額を超えていないか
- 広告に「No.1」等の表現を使う場合、客観的な根拠があるか
- 返品特約(返品の可否・条件)は明記されているか
- 定期購入の縛り条件は、申込みボタン付近に明記されているか
とくにECサイトの場合、LP(ランディングページ)の記載内容と利用規約に矛盾がないかを確認することが大切です。
2.マニュアルを整備して社内教育・研修の実施を徹底する
法令違反の多くは、現場スタッフの知識不足や、売上ノルマへのプレッシャーから生まれます。「やってはいけないこと」を明確化したマニュアルを作成し、全従業員に周知徹底しましょう。
具体的な対策方法は、以下のとおりです。
- トークスクリプトの改訂:断定的判断や不実告知を含まない営業トークを作成する
- ロールプレイング:断られた際の引き際(再勧誘の禁止)を実戦形式で学ぶ
- 定期テストの実施:理解度を確認し、コンプライアンス意識を維持させる
自己流の解釈で違反を犯すベテラン社員がいる可能性があります。新入社員だけでなく、ベテラン社員にも定期的な研修が不可欠です。
3.広告・表示内容の法務チェック体制をつくる
マーケティング部門と法務部門の連携フローも確立しましょう。「売れる表現」は、得てして「法的にグレーな表現」になりがちです。
広告をリリースする前に、必ず以下のように法的なフィルターを通す仕組みを作りましょう。
- 企画段階:訴求ポイントに法的問題がないかの相談
- 制作段階:ライティング・デザインのドラフトチェック
- 最終確認:リリース直前の最終法務承認
自社の法務部門だけで判断が難しい場合は、外部専門家との連携も必要です。社内のチェック体制に加え、弁護士との連携体制も構築しておきましょう。
4.クレーム対応・苦情処理のルールづくりをする
消費者からの苦情は、法的トラブルの前兆です。初期対応を誤ると、消費生活センターへの通報やSNSでの炎上に発展します。
誠実かつ迅速に対応するためにも、クレーム対応・苦情処理のルールを構築してガイドラインを策定しておきましょう。
クレーム対応・苦情処理のルールは、以下の4つの対応フェーズに沿って作成することが大切です。
| 対応フェーズ | 重要なアクション |
| 受付 | 感情的な発言を傾聴し、事実関係を正確に記録する |
| 調査 | 顧客の主張と社内データを照らし合わせる |
| 回答 | 組織としての統一見解を文書等で回答する |
| 改善 | 苦情の原因を分析し、業務フローや商品改良に活かす |
企業の信頼を守るためには、消費者を単なる「クレーマー」と決めつけず、自社の不備を見直す機会と捉える姿勢が重要です。
5.不安な場合はすぐ弁護士に相談する
自社だけで全ての法律を解釈し、完璧に対応するのは困難です。判断に迷った際は、すぐに相談できる顧問弁護士等の専門家を確保しておきましょう。
弁護士に依頼するメリットは、以下のとおりです。
- 新規事業のスキームが適法かどうかのチェックを受けられる
- トラブル発生時の窓口対応のアドバイスをもらえる
- 契約書や利用規約の作成・修正を依頼できる
とくに、消費者対応に強い弁護士であれば、行政の動向や過去の裁判例を踏まえた、実践的なアドバイスを受けられます。弁護士事務所の初回相談などを利用し、消費者対応に精通した弁護士を選択しましょう。

消費者保護法に関するよくある質問
消費者保護法の監督省庁はどこ?
消費者保護法の監督省庁は「消費者庁」です。
ただ、法律ごとに所管や連携先は異なります。主な管轄・連絡先は、以下のとおりです。
- 消費者契約法・景品表示法:消費者庁
- 特定商取引法:消費者庁および経済産業省
出典:消費者庁|所管の法令等
行政処分は消費者庁だけでなく、都道府県知事名で行われることもあります。地域によって異なるため、事業所がある地域の条例なども確認しておくと安心です。
高齢者への販売でとくに気をつけることは?
高齢者に販売する際は、適合性原則(顧客の知識・経験・財産・目的に照らして不適切な勧誘をしてはならない)を徹底した対応が求められます。高齢者は判断能力が低下している場合があり、契約トラブルになりやすいためです。
具体的な対応方法は、以下のとおりです。
- ご家族の同席をお願いする
- 文字を大きくし、ゆっくり丁寧に説明する
- 一度持ち帰って検討してもらう時間を設ける
後のトラブルを防ぐためにも、丁寧すぎるほどの配慮を心がけましょう。
クーリングオフが適用されない商品はある?
全ての取引でクーリングオフができるわけではありません。クーリングオフが適用されない商品も存在します。
主に、以下のケースは適用対象外です。
- 店舗に自ら足を運んだうえで契約をした場合
- 通信販売全般(返品特約または法定返品権に従う)
- 訪問販売における3,000円未満の現金取引
- 訪問販売における消耗品を使用した場合(化粧品・健康食品など、政令指定の商品に限る)
- 訪問販売における自動車(政令で指定)
上記の判断材料は、販売方法や金額だけではありません。たとえば「自動車」は高額ですが、訪問販売ではクーリングオフの適用除外となっています。
ただし、事業者が独自にクーリングオフや返品を認める規定を設けることは可能です。
違反に気がついた場合はどこに相談すべき?
社内で違反の可能性に気づいた場合は、隠蔽せず直ちに対応策を講じましょう。
まずは弁護士に相談し、法的見解を確認します。そのうえで、違反が確実であれば消費者庁に自主的に報告し、公表や返金対応を行うことが大切です。
隠そうとして後から発覚した場合、社会的制裁はより厳しくなり、企業の存続に関わります。
日頃から違反をしない体制を構築することはもちろん、万が一違反した場合の対応フローについても共有しておくことが重要です。
まとめ|消費者保護法について理解を深め、信頼を構築しよう
消費者保護法は、消費者が安心してサービスを利用するために欠かせません。法令を遵守することは、企業のリスク管理であると同時に、企業の信頼性を高める最強のブランディングになります。
契約書・マニュアル・広告の定期的な見直しを行い、法に基づいた具体的な仕組みとして形にすることが重要です。自社の体制に不安がある場合は、手遅れになる前に専門家の知見を借り、盤石なコンプライアンス体制を築きましょう。消費者保護に関する法律に違反しないか不安な場合は、専門家に相談することが大切です。丸の内ソレイユ法律事務所は、企業の薬機法・広告・新規事業の法規制対応に詳しい弁護士が在籍しています。個々の状況に合わせて適切な解決策をご提案できるため、まずはお気軽にご相談ください。
