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【令和6年3月】初の特商法12条(誇大広告)違反の事例(ナンバー1表示) 

業務停止命令及び指示、並びに、業務禁止命令の発令

令和6年3月14日、消費者庁は、通信販売を行っている会社に対し、特定商取引法15条1項に基づき、同月15日から同年6月14日までの3か月間、通信販売に関する業務の一部(広告、申込受付及び契約締結)を停止するよう命じました。また、合わせて、消費者庁は、特定商取引法14条1項に基づき、同会社に対し、法令順守体制の整備その他の再発防止策を講ずることなどを指示しました。さらに、消費者庁は、同社の代表取締役個人に対し、特定商取引法15条の2第1項に基づき、同月15日から同年6月14日までの3か月間、上記の業務停止命令による業務の停止を命ずる範囲の業務を新たに開始すること(当該要務を営む法人の当該業務を担当する役員となることを含む。)の禁止を命じました。

この内容だけ見ると、特定商取引法に基づく通常の行政処分だと感じます。ただ、本件は、特定商取引法12条違反が認定された初の事例ということです。そこで、特商法12条の内容や景品表示法の優良誤認との比較もしながら見ていこうと思います。

特定商取引法12条(誇大広告違反)と景品表示法の優良誤認

特定商取引法の条文は、次のとおりです。

(誇大広告等の禁止)

第十二条

販売業者又は役務提供事業者は、通信販売をする場合の商品若しくは特定権利の販売条件又は役務の提供条件について広告をするときは、当該商品の性能又は当該権利若しくは当該役務の内容、当該商品若しくは当該権利の売買契約又は当該役務の役務提供契約の申込みの撤回又は解除に関する事項(第十五条の三第一項ただし書に規定する特約がある場合には、その内容を含む。)その他の主務省令で定める事項について、著しく事実に相違する表示をし、又は実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示をしてはならない。

次に、景品表示法の優良誤認に関する条文は、次のとおりです。

(不当な表示の禁止)

第五条

事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。 

 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの

広告の対象が多少異なるものの、いずれの条文も、実質的に誇大広告の禁止をその内容に含むものとなっています。

なぜ、今まで特定商取引法12条違反がなかったのか

1)優良誤認における不実証広告規制の存在

不実証広告規制は、消費者庁等が事業者に対し、「当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めること」ができ、事業者が合理的な根拠を示すことができなかった場合、措置命令の場合には優良誤認とみなされ、課徴金納付命令の場合には優良誤認と推定されるという制度です。なお、みなされるというのは争う余地がなくなることを意味し、推定の場合には争う余地があるものの覆すのは大変です。なお、優良誤認の措置命令に関する不実証広告規制については景品表示法7条2項、課徴金納付命令に関する不実証広告規制については景品表示法8条3項に定められています。

このように、景品表示法上の優良誤認については、広告をした会社等に対して、合理的な根拠を提出するように命ずることができ、それに基づいて、消費者庁が判断することができるという非常に強力な制度があるわけです。

これに対し、特定商取引法12条違反には、不実証広告規制は適用されませんし、特定商取引法には不実証広告規制のような制度はありません。 そうなると、ある誇大広告に対して、景品表示法の優良誤認、特定商取引法12条違反のどちらでも適用することができると考えられる場合、消費者庁は、景品表示法の優良誤認、そして、不実証広告規制の制度を使うことを考えるでしょう。 

(2)優良誤認における課徴金納付命令の存在

上記の不実証広告規制の際にも少し触れましたが、景品表示法の優良誤認に該当する場合、景品表示法に基づいて課徴金納付命令を発令することができます。課徴金納付命令は、最大3年間の売上の3%を課徴金として納付させることができる命令で、非常に強力なものとなります。通信販売をしている会社としても、実際に利益を度外視して、売上を基に課徴金を納付することとなるので、経済的に痛手となります。

これに対し、特定商取引法12条違反によって、課徴金納付命令を発令することはできません。 そうなると、ある誇大広告に対して、景品表示法の優良誤認、特定商取引法12条違反のどちらでも適用することができると考えられる場合、消費者庁は、課徴金納付命令のことも考慮して、景品表示法の優良誤認違反を選択する可能性が高いと考えられます。 

(3)まとめ

以上のとおり、ある誇大広告が存在する場合、特定商取引法12条違反、景品表示法の優良誤認違反など、複数の法令に違反する可能性があります。その際、消費者庁は、その法令の使い勝手(景品表示法における不実証広告規制の存在)や課徴金納付命令の有無などを考慮して、今まで、景品表示法の優良誤認違反を選択してきたものと思われます。 これが、今まで、特定商取引法12条違反の事例がなかった大きな理由と考えられます。 

今回、特定商取引法12条違反を認定した理由は

今回の事例で、特定商取引法12条違反を認定した理由は定かではありませんが、考えられる理由としては、上記において述べた景品表示法の優良誤認違反でなくても良いと考えられる理由があったということが挙げられると思います。

例えば、不実証広告規制の制度を使うまでもなく、特定商取引法12条違反が明らかであったといえる事例であった場合や課徴金納付命令を出せないほどに売上が低額であった(売上150万円未満の場合には、景品表示法の課徴金納付命令は出せません。)場合などが考えられます。

次に、本件の事例がナンバー1表示に関するものであったということも理由として挙げられるかもしれません。今回の事例では、通信販売をしていた会社は、10冠達成などと広告しており、当該広告が公平・公正な方法で行われた調査ではなかった(イメージ調査、委託事業者に登録している会員を対象に行われたもの、実際に体験した者に限っていない)という理由で特定商取引法12条違反と認定されています。

令和6年3月現在、立て続けに、ナンバー1表示に対する景品表示法の優良誤認違反に関する措置命令が出ています。消費者庁としては、景品表示法のみならず、特定商取引法にも違反することを公表しておきたかったというところも考えられるところです。

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