「景表法が改正されたと聞いたけれど、具体的に何が変わったの?」
「確約手続や直罰規定って、自社にどんな影響があるのだろう?」
2024年に施行された景品表示法の改正は、企業の広告・マーケティング活動に大きな影響を与える重要な変更です。
確約手続の導入、課徴金制度の見直し、直罰規定の新設など、違反抑止と消費者保護を徹底するための新しい仕組みが整備されました。法令違反のリスクを回避するためには、改正内容を正しく理解し、自社の広告・表示体制の見直しをすることが欠かせません。
本記事では、近年の景表法改正の履歴(概要)から、2024年改正で新設された制度の内容、さらに企業が準備すべき対応ポイントまでを詳しく解説します。
景表法改正への対応や広告表示の法的リスクに不安がある場合は、企業法務に精通した「弁護士法人丸の内ソレイユ法律事務所」へご相談ください。豊富な実務経験を持つ弁護士が、貴社の状況に合わせた最適な対応策をご提案し、コンプライアンス体制の見直しをサポートいたします。

近年の景表法の改正履歴(概要)
景品表示法は、消費者を守り、企業間の公正な競争を保つために定められた法律です。社会の変化に合わせて、これまで何度も改正が行われてきました。
近年の改正では、2014年(施行は2016年)の課徴金制度導入、2023年のステルスマーケティング規制、2024年の確約手続・直罰規定の新設など、違反抑止力を高める方向で法整備が進められています。
主要な改正の流れは以下のとおりです。
| 改正年 | 主な改正内容 | 目的・影響 |
| 2014年(2016年施行) | 課徴金制度の導入 | 違反事業者に経済的負担を課し、抑止力を強化 |
| 2023年 | ステルスマーケティングの規制強化 | 広告であることを明示する義務化により透明性を確保 |
| 2024年 | 確約手続・直罰規定・開示要請の新設 | 自主的是正の促進と悪質違反への厳格対応 |
※ステルスマーケティング規制はステルスマーケティングが不当表示の一つとして指定されたものとなります。
ここでは、企業が押さえておくべき3つの主要な改正について、その背景と内容を解説します。
2014年:課徴金制度が導入決定
2014年の景表法改正では、違反事業者に対して金銭的負担を課す「課徴金制度」が新たに導入されました。これは、従来の措置命令だけでは不十分だった、違反抑止力を高めるための制度です。
課徴金制度の主な特徴は以下のとおりです。
- 不当表示によって得た売上の3%を基準に算定
- 企業に直接的な経済的負担を課すことで違反を抑止
- 「違反すれば金銭的制裁を受ける」という厳格なルールへ転換
課徴金制度導入により、景表法違反は「指摘されたら直せばよい」という認識から、「違反すれば金銭的制裁を受ける」という厳格なルールへと変化しました。
これらの改正は、企業にとって広告表示の正確性やエビデンス管理の重要性が、これまで以上に高まったものといえます。
2023年:ステルスマーケティングを「不当表示」に指定
2023年10月1日施行の「ステルスマーケティング告示(内閣府告示第125号)」により、インフルエンサー投稿なども「広告主の表示」として新たに景表法の規制対象とされました。
ステマとは、広告であることを隠して宣伝する行為を指します。具体的には、事業者が第三者(インフルエンサーなど)に依頼して商品を宣伝させる際、「広告である」という表示を明確にしていない場合に該当するものです。
ステマ規制では、広告を配信する企業に以下のような対応が求められます。
- インフルエンサーへの依頼時に「広告」「PR」「プロモーション」の明示を義務化
- 投稿内容の事前チェック体制を強化
- 契約書への広告表示義務の明記
この改正により、企業にはインフルエンサーやアフィリエイターを活用したマーケティングにおいて、「広告」「PR」「プロモーション」といった表示を明示する義務が生じました。SNSマーケティングにおいて、透明性のある広告運用が法的に求められています。
出典:消費者庁 令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法違反となります。
2024年:確約手続・直罰規定・開示要請などの新設
2024年の景表法改正では、企業の自主的な是正を促す「確約手続」、違反抑止力を強化する「直罰規定」、消費者団体による「開示要請規定」など、複数の新制度が導入されました。
これらの改正は、違反を未然に防ぐ仕組みと、違反時の厳格な対応を両立させる内容となっています。
2024年改正で新設された主な制度は以下のとおりです。
| 新設制度 | 内容 | 企業への影響 |
| 確約手続 | 課徴金納付命令を回避できる制度 | 消費者庁からの確約手続通知を受けて、企業が確約計画を提出し認定された場合、課徴金納付命令を回避できる |
| 直罰規定 | 悪質な違反に対して、刑事罰を直接適用できる制度 | 違反抑止力が大幅に強化される |
| 開示要請規定 | 適格消費者団体が、広告表示の根拠資料の開示を要請できる制度 | エビデンス管理体制の整備が不可欠 |
この改正により、企業は違反を未然に防ぐ体制整備と、違反時の迅速な対応が求められるようになりました。
出典:消費者庁 【令和6年10月1日施行】改正景品表示法の概要
2024年に景表法改正が行われた主な目的
2024年の景表法改正は、制度を増やすだけのものではありません。消費者を守り、公正な取引を保つという目的を、より確実に実現するために大きく見直しが行われました。
改正が目指した主な目的は以下の3つです。
- 表示・広告環境のルールを時代に合わせて見直す
- 企業の自主的是正を促す仕組みを整備する
- 違反抑止と消費者保護を徹底する
ここでは、改正が目指した3つの主要な目的を詳しく解説します。
表示・広告環境のルールを見直すため
デジタル広告の普及により、広告の形は多様化し、消費者が目にする情報量も増加しました。
SNS広告やインフルエンサーマーケティングなど、これまでの規制では対応しきれない新しい広告手法も増えています。これにより、消費者にとって「広告なのか、個人の意見なのか」の区別が難しくなり、誤認しやすい環境が生まれていました。
2024年の景品表示法改正では、このデジタル時代の課題に対応するため、広告表示に関するルールの明確化と、違反を防ぐための実効的な仕組みが整備されています。
特に、ステマ規制の強化や開示要請規定の新設によって、広告の透明性を高め、消費者が正しい情報をもとに商品を選べるようにすることが目的です。
企業の自主的是正を促す仕組みを整備するため
従来の景表法では、違反が発覚した場合に消費者庁が措置命令や課徴金納付命令を出す「事後規制」が中心でした。しかし、企業が自ら問題に気づき、早期に是正する仕組みがなかったため、違反状態が長期化するケースが問題視されていました。
2024年改正で導入された「確約手続」は、消費者庁が違反の疑いがある企業に確約手続通知を行い、企業がそれに応じて確約計画を提出・認定された場合、措置命令・課徴金納付命令が行われない制度です。
なお、確約手続とは別に、平成28年から「自主申告制度」も運用されており(景表法第9条)、企業が調査開始前に自主的に違反事実を消費者庁に申告した場合、課徴金額が50%減額される仕組みも併存しています。
確約手続の導入により、企業側にとっては以下のようなメリットがあります。
| 制度の種類 | 適用効果 | 利用条件 |
| 確約手続(2024年新設) | 措置命令・課徴金納付命令の完全回避 | 消費者庁からの通知を受けて確約計画が認定される |
| 自主申告制度(平成28年開始) | 課徴金額の50%減額 | 調査開始前の自主的な違反事実の報告 |
この仕組みにより、企業は違反を隠すのではなく、積極的に是正する姿勢を示すインセンティブ(動機づけ)が生まれました。結果として、消費者保護と企業の自主的なコンプライアンス向上の両立が期待されています。
違反抑止と消費者保護を徹底するため
景表法違反は、消費者の適切な商品選択を妨げ、公正な競争環境を歪める行為です。2024年改正では、悪質な違反に対する抑止力を強化するため、「直罰規定」が新設されました。
これにより、従来の行政処分(措置命令・課徴金)に加えて、刑事罰を直接科すことが可能となりました。違反行為への心理的・経済的ブレーキにつながる制度といえます。
また、適格消費者団体による「開示要請規定」の追加により、消費者側からの監視機能も強化されています。
直罰規定と開示要請規定による違反抑止効果は以下のとおりです。
| 制度 | 抑止効果 | 企業への影響 |
| 直罰規定 | 刑事罰により悪質違反を強力に抑止 | 経営層の法令遵守意識が向上 |
| 開示要請規定 | 消費者側からの監視機能を強化 | エビデンス管理の徹底が必須に |
これらの改正は、違反を「割に合わない行為」にし、企業が自発的に法令を守る強い動機を生み出すことを目的としています。
2024年景表法改正で新しく導入・見直しされた内容
2024年の景表法改正では、企業の自主的対応を促す仕組みと、違反時の厳格な対応を両立させる5つの重要な制度変更が行われました。
改正のポイントを以下のように整理します。
| 改正項目 | 制度の性質 | 主な目的 |
| 確約手続の導入 | 自主的是正の促進 | 企業の早期是正を支援し課徴金納付命令を回避 |
| 課徴金制度の見直し | 違反抑止の強化 | 繰り返しの違反に対応した課徴金額の加算(1.5倍) |
| 直罰規定の新設 | 刑事罰の導入 | 故意による優良誤認・有利誤認表示に対し刑事責任を追及 |
| 開示要請規定の追加 | 消費者監視機能の強化 | 適格消費者団体による資料開示要請 |
| ガイドライン整備 | 運用基準の明確化 | 企業の適切な対応を支援 |
ここでは、各制度の内容と企業への影響を詳しく解説します。
出典:消費者庁 【令和6年10月1日施行】改正景品表示法の概要
1.事業者の自主的対応を促す「確約手続」の導入
確約手続とは、景品表示法に違反する疑いがある行為(違反被疑行為)について、消費者庁が調査を行い、必要と認めた場合に、事業者に確約計画の策定と申請を促す制度です。
消費者庁が計画を「認定」すれば、企業は措置命令や課徴金納付命令を回避できる可能性があります。違反を隠すのではなく、積極的に是正する姿勢が評価される仕組みです。
以下の流れで確約手続を行うことで、企業側が得られるメリットがあります。
| 確約手続の基本的な流れ | 企業が得られるメリット |
| 1. 消費者庁からの確約手続通知を受ける | 行政処分(措置命令・課徴金)の回避 |
| 2. 実効性のある確約計画を策定・提出する | 迅速な問題解決によるブランド信用維持の可能性 |
| 3. 消費者庁が計画の妥当性を審査・認定する | 自主的コンプライアンスの姿勢をアピールできる |
ただし、確約計画は消費者庁の厳格な審査を受けるため、実効性のある是正措置と再発防止策を含む計画を提示しなければなりません。
2.抑止力を強化する「課徴金制度」の見直し
2024年の改正では、既存の課徴金制度がさらに見直され、景表法違反に対する抑止力が大幅に強化されました。従来の制度では、企業の違反の悪質性や継続期間が、十分に課徴金額に反映されないという課題が問題視されていたためです。
改正の主な内容は、違反行為から遡って10年以内に課徴金納付命令を受けたことがある事業者に対し、課徴金の額を1.5倍に加算する規定の新設です。また、課徴金の計算基礎となる売上額を把握できない期間については、推計により算定できる規定も整備されました。
一方で、企業の自主的な取組を促進するため、返金措置の弾力化も図られています。従来は金銭による返金のみが認められていましたが、改正により電子マネーなどの第三者型前払式支払手段による返金も可能となりました。
| 見直し内容 | 改正の効果 | 適用条件・基準 |
| 繰り返し違反への加算措置 | 課徴金額を1.5倍に加算(通常3%→4.5%) | 違反行為から遡って10年以内に課徴金納付命令を受けた事業者 |
| 売上額の推計規定 | 証拠隠滅等による算定回避を防止 | 課徴金の計算基礎となる事実を把握できない期間 |
| 返金措置の弾力化 | 消費者への迅速な被害回復を促進 | 電子マネー等による返金方法の多様化 |
出典:消費者庁 【令和6年10月1日施行】改正景品表示法の概要
この改正により、悪質な違反には厳格な制裁が科される一方で、消費者への被害回復を積極的に行う企業にはインセンティブが与えられる制度設計となりました。結果として、違反の予防効果と被害回復の両面で、より実効性の高い課徴金制度が実現されています。
3.違反時に直接刑罰を科す「直罰規定」の新設
2024年改正で新設された「直罰規定」は、悪質な景品表示法違反に対して、行政処分を待たずに刑事罰を科すことを可能にする制度です。従来、景表法違反への対応は行政処分(措置命令・課徴金)が中心で、刑事罰が科されるケースは非常に限定的でした。
直罰規定の導入により、景表法違反は「企業のコンプライアンス問題」から「刑事責任を問われる犯罪行為」へと、性質が大きく変化したことがポイントです。
直罰規定が適用されるのは、景表法違反の中でも、下記のように特に悪質性の高いケースに限定されます。
| 適用対象となる主なケース | 想定される刑事罰 |
| 故意に消費者を欺く目的で不当表示を行った場合 | 罰金刑(最大100万円) |
| 消費者庁の措置命令に従わず、違反表示を継続した場合 | 罰金刑(最大300万円)拘禁刑(2年以下) |
| 組織的・継続的に不当表示を繰り返した場合 | 法人に対する両罰規定の適用(罰金刑) |
この規定の導入により、企業にとっては、違反を未然に防ぐ体制整備の重要性が一層高まりました。
4.適格消費者団体による「開示要請規定」の追加
景表法の改正により、適格消費者団体が事業者に対して、広告表示の根拠資料(エビデンス)の開示を求めることができる「開示要請規定」が追加されました。企業は、広告表示の正確性について、常に説明責任を負う体制を整える必要があります。
開示要請規定は、虚偽・誇大な広告表示を未然に防ぐことを目的とし、以下のように管理されている制度です。
| 項目 | 内容 | 企業への影響(義務) |
| 要請主体 | 消費者庁が認定した適格消費者団体(消費者保護を目的とした特定非営利活動法人など) | 企業は、要請元が認定団体であるかを確認する必要がある |
| 開示対象 | 広告表示の根拠となるエビデンス(試験データ、調査結果、比較資料など) | 表示した内容を裏付ける資料を準備し、保持する義務 |
| 対応期限 | 合理的な期間内(通常2週間〜1か月程度)での提出が求められる | 期限内に対応できるよう、社内での資料検索・提出フローを整備する必要がある |
| 拒否した場合のリスク | 正当な理由なく拒否した場合、消費者庁による調査や措置命令につながる可能性がある | 拒否は事実上の違反と見なされるリスクが高い |
開示要請に迅速かつ的確に対応し、不要なリスクを避けるために、企業は以下のエビデンス管理体制を構築することが求められます。
- 広告表示ごとに根拠資料を紐付けて保管する
- 資料の保管期間を明確化し、必要な期間(例:最低5年以上を推奨)保持する
- 開示要請を受けた際の対応フローを文書化し、担当者が変わっても対応できる体制を整える
この規定により、企業は広告表示のエビデンス管理を徹底し、いつでも開示できる透明性の高い体制を構築することが、コンプライアンス上の必須要件となりました。
5.改正に合わせ消費者庁ガイドライン・Q&Aの整備
2024年の景表法改正(直罰規定、確約手続、開示要請など)に伴い、消費者庁は各制度の運用基準を明確化するため、ガイドラインやQ&Aの整備を行いました。これは、企業が改正内容を正確に理解し、適切に対応するための具体的な指針を示すものです。
企業は、これらの公式資料を参照することで、新たな制度を反映したコンプライアンス体制を構築できます。整備されたガイドライン・Q&Aは、特に実務で重要な以下の内容が特徴です。
| 新設された制度 | 企業が負う義務・対応の焦点 |
| 直罰規定 | 故意・悪質な違反(措置命令違反など)をしないよう、広告チェック体制を強化する |
| 確約手続 | 違反の疑いに対し、自主的に是正計画を提出する |
| 開示要請規定 | 広告の根拠資料(エビデンス)を、適格消費者団体からの要請にいつでも開示できる体制を整える |
| ガイドライン整備 | 最新のQ&A(確約手続、直罰規定の適用基準など)を定期的に確認し、社内ルールに反映する |
企業は、これらの公式資料を定期的に確認し、最新の運用基準に基づいたコンプライアンス体制を構築することが不可欠です。運用基準に不明点がある場合は、消費者庁への問い合わせや、景表法に精通した専門家への相談を活用しましょう。
確約手続を行った企業は?法改正後に初の適用事例
2024年の景表法改正で導入された確約手続が施行後、初めて確約手続を利用して課徴金納付命令を回避した企業の事例が報告されています。
消費者庁が2025年2月に初めて認定した確約計画は、フィットネスジム「かたぎり塾」(運営:caname株式会社)が行った値引き表示(有利誤認表示の疑い)に関するものでした。
同社はウェブサイト上で「期間限定で入会金割引を実施」と宣伝していたにもかかわらず、実際には期限後も同じ割引を継続しており、消費者に「期限内に申し込まなければ割引を受けられない」と誤解させた疑いがある内容です。
消費者庁が「実効性があり、影響を是正するために十分である」と認定した計画には、以下の具体的な是正措置と消費者への回復措置が含まれています。
| 確約手続で認定された主な是正措置 | 具体的な内容 |
| 違反行為の取りやめ | 疑いのある表示を直ちに停止し、同様の行為を行わない旨の取締役会決議を実施 |
| 消費者への周知徹底 | 違反被疑行為の内容と是正措置の内容を、一般消費者に周知徹底した |
| 消費者への回復措置 | 違反被疑行為期間に入会した顧客に対し、入会金の一部返金を実施した |
| 再発防止策の策定 | 社内チェック体制の再構築、コンプライアンス研修の実施など、再発防止策を策定した |
この事例から、企業が確約手続を有効に活用するためには、①違反の即時停止、②消費者への返金・補償、③再発防止策の徹底の3点が重要であることが明確になりました。
出典:消費者庁 caname株式会社から申請があった確約計画の認定について
改正景表法に向けて企業が準備すべき対応ポイント
2024年の景表法改正により、企業には新たな対応が求められています。違反リスクを回避し、確約手続や直罰規定に適切に対応するためには、事前の体制整備が不可欠です。
ここでは、企業が優先的に取り組むべき3つの対応ポイントを解説します。
1.中小企業でも対応が必要な理由を把握する
景品表示法は、企業の規模や業種を問わず、すべての事業者に適用される法律です。
「中小企業だから大丈夫」「うちは地域密着型だから関係ない」という認識は、改正後の厳格な制度下では重大なリスクを見落とす原因となります。
中小企業でも景表法対応が重要なのは、以下のような理由です。
| 重要な理由 | 具体的なリスクと影響 |
| 全企業に適用される法律 | 2024年改正の直罰規定・開示要請規定は企業規模に関係なく適用され、「知らなかった」は免責理由にならない |
| 監視対象の拡大 | SNSやWebサイトでの広告展開は、消費者や適格消費者団体からの監視対象であり、小規模事業者でも違反が発覚しやすい |
| 経営への影響 | 違反による信用失墜が、大企業よりも事業存続に直結しやすい |
| 体制の脆弱性 | 法務部門がない中小企業ほど、法令理解不足による違反リスクが高い |
特に、直罰規定の導入により、悪質な違反は刑事罰の対象となりました。そのため、法令遵守は企業規模ではなく、事業活動の内容によって求められるものであることを認識し、早めに管理体制を整えることが重要です。
2.広告・表示チェック体制を再構築する
改正景表法に対応するためには、広告・表示の企画段階から公開後まで、一貫したチェック体制の構築が不可欠です。従来の「担当者任せ」「事後確認」の体制では、違反リスクを十分に回避できません。
以下のように、広告の管理体制を見直す必要があります。
| ステップ | 実施内容(目的) | 連携すべき主な部署 |
| 1. 企画段階 | 広告表現の法務チェック、エビデンスの事前確保(根拠資料の準備) | 法務部・マーケティング部 |
| 2. 制作段階 | 表現内容のダブルチェック、根拠資料との整合性確認 | 制作部・広報部 |
| 3. 公開前 | 最終的な法令適合性の確認、経営層による承認フローの実施 | 法務部・経営層 |
| 4. 公開後 | 定期的なモニタリング、適格消費者団体や消費者からの指摘への迅速な対応 | 広報部・カスタマーサポート |
特に、インフルエンサーマーケティングやアフィリエイト広告など、第三者が関与する広告では、広告であることがわかるよう「広告」「PR」の表示義務を徹底する必要があります。チェック体制の構築には、法務、マーケティング、広報部門の連携強化と、定期的な社内研修が不可欠です。
3.社内でエビデンス管理・開示体制を整える
開示要請規定の導入により、企業は広告表示の根拠資料(エビデンス) を、適格消費者団体などからの要請にいつでも開示できる体制を整えることが義務となりました。
エビデンス管理は、違反を防ぐだけでなく、企業の信頼性を示す重要な取り組みです。以下のように資料を管理する必要があります。
| 管理項目 | 企業が取り組むべき具体的な対応内容 | 目的と重要性 |
| 資料の体系的保管 | 広告表示ごとに、根拠資料(科学的根拠、試験データなど)を紐付けて保管する | 迅速な開示に応じるため、検索性と対応速度を確保する |
| 保管期間の明確化 | 最低3年以上(推奨は5年以上)の保管期間を明確に定め、期限を管理する | 「過去の広告だから資料がない」という事態を避ける |
| 開示対応フロー | 要請受領から開示までの手順、担当者、代行者を文書化する | 「担当者が退職してわからない」という事態を避け、開示拒否と見なされるリスクを回避する |
商品の効果や性能を訴求する広告では、客観的なエビデンス(科学的根拠や試験データ)が必須です。万が一に「資料が見つからない」という事態は、開示拒否とみなされ、消費者庁による調査や措置命令につながる重大なリスクとなります。
景表法改正への対応は弁護士に相談して違反リスクを防ごう
景表法改正により、企業には従来以上に厳格なコンプライアンス体制が求められています。直罰規定の新設、確約手続の導入、開示要請への備えなど、法令の正確な理解と実務対応が不可欠です。
しかし、景表法の解釈は複雑であり、広告表現の適法性判断や、改正法への対応には専門的な知識が必要となるケースが少なくありません。
景表法に精通した弁護士に相談することで、刑事罰・課徴金リスクを防ぎ、以下の具体的なメリットが得られます。
| 相談内容 | 弁護士のサポート内容 | 企業が得られる実質的な効果 |
| 広告表示の事前チェック | 表現の適法性判断、根拠(エビデンス)の妥当性確認 | 違反リスクの事前回避と、開示要請への備え |
| 確約手続の申請支援 | 是正計画の策定、消費者庁との折衝(意見聴取など) | 課徴金納付命令の回避 |
| 消費者庁調査への対応 | 調査への立会い、答弁書・報告書の作成サポート | 不利益処分(措置命令・課徴金)の回避・軽減に繋がる |
| 直罰規定・開示要請への対応 | 開示範囲の判断、対応マニュアル作成、刑事罰回避のアドバイス | 刑事責任リスクの低減と、迅速かつ適切な対外対応 |
| 社内体制整備 | 法務マニュアル作成、全社向けコンプライアンス研修の実施 | 持続的なコンプライアンス体制を強化する |
企業のコンプライアンス体制を強化し、「知らなかった」では済まされない違反リスクを防ぐためにも、専門家との連携は非常に重要です。
「弁護士法人丸の内ソレイユ法律事務所」では、景表法を含む企業法務に精通した弁護士が、貴社の状況に合わせた最適な対応策をご提案します。広告表示の適法性に不安がある場合、確約手続の利用を検討している場合は、ぜひお気軽にご相談ください。

景表法改正に関するよくある質問
インフルエンサーの投稿も景表法改正の対象になる?
インフルエンサーの投稿は、企業が依頼して商品やサービスを宣伝させる場合、景品表示法が規制する「広告」と見なされるため、規制の対象となります。
特に2023年10月1日からは、景表法でステルスマーケティング(ステマ)規制が本格導入されました。これにより、企業がインフルエンサーに依頼した投稿には、それが広告であることを消費者に明示する義務が生じます。
これは、消費者が「個人的な感想」と「企業から依頼された広告」を区別できるようにするための規制です。企業はインフルエンサーとの契約段階から明確なルール設定を行い、広告の依頼元として、以下のような責任を果たすことが求められます。
| 項目 | 企業が注意すべきポイント |
| 表示義務の徹底 | 契約書に「広告」「PR」「プロモーション」といった明瞭な表示義務を明記する |
| 事前のチェック | 投稿内容を事前にチェックし、適切な広告表示がなされているかを確実に確認する体制を構築する |
| 監視体制の構築 | 投稿後も、表示が適切になされているか、継続的に監視する |
| ギフティング | 無償で商品を提供(ギフティング)した場合でも、宣伝を目的としていれば規制対象となるケースがある |
なお、個人のインフルエンサーに責任が問われるのではなく、依頼した企業側に責任が問われます。
規制の対象となるのは、商品・サービスを供給する事業者(広告主)です。企業から広告・宣伝の依頼を受けたインフルエンサー等の第三者は規制の対象とはなりません。
引用:消費者庁 令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法違反となります。
たとえインフルエンサーが表示を怠った場合でも、依頼した企業が景表法違反の責任を問われる可能性があるため、投稿後のチェックも継続的に行いましょう。
確約手続きを使えばすぐに課徴金納付命令は回避できる?
確約手続を利用しても、課徴金納付命令を自動的に回避できるわけではありません。
確約手続は、企業が景表法違反の疑いに対し、自主的に実効性のある是正計画(確約計画)を提出し、消費者庁がその計画を認定した場合に、課徴金納付命令を回避できる可能性がある制度です。
なお、確約手続とは別に、調査開始前の企業による自主的な違反事実の報告(自主申告制度・9条報告)により課徴金額の50%減額を受けられる制度も平成28年から存在しています。
課徴金の扱いや減免の程度は、企業の自主的な是正の姿勢と、計画の質によって決定される仕組みです。
| 項目 | 内容 | 注意すべきポイント |
| 課徴金納付命令の扱い | 自動回避ではなく、確約計画認定後に課徴金納付命令が「行われない」 | 回避は可能性であり、必ず保証されるものではない |
| 認定の判断基準 | 違反内容や是正措置の実効性、再発防止策の充実度により個別に判断される | 計画の具体性と実現可能性が審査の鍵となる |
| 認定されない場合 | 通常どおり措置命令・課徴金納付命令が全額適用される | 審査を通過しなければ、通常通りの行政処分となる |
| 必要な対応 | 実効性のある是正措置と徹底した再発防止策を含む計画を策定し、実行する必要がある | 単に申請するだけでは、認定されない |
企業は、単に申請するだけでなく、実効性のある是正措置と徹底した再発防止策を含む計画を策定し、実行する必要があります。
直罰規定はどんな場合に適用される?
直罰規定は、悪質な景品表示法違反に対して刑事罰を科すための規定です。単なるミスや知識不足による違反ではなく、具体的には以下のような「故意」 や「組織的な悪質性」が重要な判断基準となります。
| 違反のケース | 重要な判断のポイント |
| 故意に消費者を欺く目的で不当表示を行った | 故意性(騙す意図)や組織的関与の有無。 |
| 消費者庁の措置命令に従わず、違反を継続した | 行政命令違反の事実、および違反の継続期間。 |
| 組織的・継続的に不当表示を繰り返した | 悪質性や消費者への被害規模が重大であるか。 |
※なお、措置命令違反は直罰規定の新設に基づくものではなく、従来から存在する罰則です。
企業は、違反を未然に防ぐ体制整備と、違反が発覚した場合の迅速かつ誠実な是正対応を徹底することが重要です。
まとめ|景表法改正へ対応できるよう早めの体制づくりを始めよう
2024年の景表法改正は、企業の広告・マーケティング活動に大きな影響を与える重要な変更です。確約手続の導入により、企業には自主的な是正を行うインセンティブが生まれました。
一方で、直罰規定の新設により、悪質な違反には厳格な刑事罰が科される可能性があります。さらに開示要請規定の追加により、企業は広告表示のエビデンスをいつでも開示できる体制を整えなければいけません。
これらの改正に適切に対応するためには、広告・表示チェック体制の再構築、エビデンス管理の徹底、そして社内研修による意識向上が不可欠です。「自社は大丈夫」という過信は、重大な違反リスクを見落とす原因となります。
自社の広告・表示体制を今一度見直し、改正景表法に対応できるコンプライアンス体制を早めに見直しましょう。
景表法改正への対応や広告表示の法的リスクに不安がある場合は、「弁護士法人丸の内ソレイユ法律事務所」へご相談ください。企業法務に精通した弁護士が、貴社の状況に合わせた最適な対応策を丁寧にご提案し、コンプライアンス体制の構築をサポートします。
