「セール期間延長は景表法違反になる?」
「『通常価格』の表示条件がいまいち分からない…」
売上目標を達成するために魅力的なセールを打ちたい一方、どこまでが許容範囲なのか、判断に迷う人は多いのではないでしょうか。一歩間違えれば、「措置命令」や「課徴金」の対象となり、積み上げた企業の信頼を一瞬で失う可能性があるため、適切な理解が必要です。
本記事では、実務担当者がとくに悩みやすい「二重価格表示の適法ライン」や「セール期間延長のOK/NG判断」について、具体的なケーススタディを交えて徹底解説します。法的リスクを確実に回避しつつ適切なセール設計をするためにも、ぜひ参考にしてみてください。
弁護士法人丸の内ソレイユ法律事務所は、景表法・薬機法などの広告法務に精通した弁護士が多数在籍しています。セール企画のリーガルチェックや広告表現でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。

景表法の改正によるセール実務への3つの影響
2024年(令和6年)10月施行の「令和5年改正景品表示法」では、不当表示に対する課徴金制度の見直しや、確約手続の導入などが行われ、事業者の自主的な是正と抑止力の強化が図られました。
この改正がセールの実務に与える主な影響は、以下のとおりです。
| 影響項目 | 内容 |
| 課徴金制度の強化 | 違反行為の日(基準日)から遡って10年以内に課徴金納付命令を受けた事業者が再度違反した場合、課徴金の算定率が通常の3%から4.5%(1.5倍)に加算されます。 |
| 確約手続の導入 | 不当表示の疑いがある際、事業者が自主的な是正計画を申請・認定されれば、措置命令等が免除される制度が新設されました。セール期間の設定ミス等に対し、行政処分を回避する事後対応が可能となりました。 |
| 直罰規定の導入と厳罰化 | 措置命令を経ずとも、悪質な不当表示には直接「100万円以下の罰金」が科される規定が新設されました(景品表示法第48条)。現場の判断ミスでは済まされないため、セール企画段階での法務チェックが不可欠です。 |
セールをする際は、「売上の最大化」だけでなく、「表示の適正管理」も重要です。「知らなかった」では済まされないため、現場レベルでの意識改革と組織的なチェック体制を構築しましょう。
出典:消費者庁|令和6年10月1日施行 改正景品表示法の概要
景品表示法については、以下の記事でも詳しく解説しています。併せて参考にしてみてください。
なぜ「セール期間」が景品表示法で問題になるのか?
セール期間の表示が厳しく問われる理由は、消費者の「有利誤認」を招く恐れがあるためです。有利誤認とは、取引条件が実際よりも著しく有利であると消費者に誤解させる行為を指します。
たとえば、実態がないにもかかわらず「今だけお得」と表示をすると、消費者に不要な焦りを生じさせ、冷静な判断を阻害します。
さらに、期間を偽る事業者が不当に利益を得ることで、正直に営業する競合他社の利益が損なわれます。市場全体の競争環境を悪化させることにもなるでしょう。
そのため、見せかけの割引によって価格のお得感を不当に演出することは、景品表示法によって厳しく規制されています。
セール価格と「二重価格表示」の適法ライン

セールを行う際、多くの事業者が「通常価格」と「セール価格」を併記します。これを「二重価格表示」と呼びますが、運用には厳格なルールが存在するのが特徴です。
以下、二重価格表示について具体的に解説します。
二重価格表示とは?
二重価格表示とは、販売価格の安さを強調するために、より高い価格(比較対照価格)を併記する表示方法です。いわゆる、セール価格や割引価格などが挙げられます。
二重価格表示の構成要素は、以下のとおりです。
| 要素 | 定義 | 表示例 |
| 実売価格 | 実際に消費者が購入できる現在の価格 | 「特別価格5,000円」 |
| 比較対照価格 | 値引きの基準として示される過去の価格や参考価格 | 「当店通常価格10,000円」 |
| 割引率・額 | お得さを数値化したもの | 「50%OFF」「5,000円引き」 |
二重価格表示自体は違法ではありません。適切に活用することで、消費者からの注目を集め、売上向上が期待できるでしょう。
違反となる「二重価格表示」のパターン
比較対照価格として認められない価格を使用することは、景表法違反の代表格です。実務で頻繁に問題となるパターンは、以下のとおりです。
- 架空の通常価格
- 販売実績が乏しい価格
- 計画がない場合における将来の販売予定価格
まず、一度も販売した実績のない高値を「通常価格」として表示するケースは、割引率を操作するための悪質な手法とみなされます。
また、短期間しか販売していない価格を元値にする行為も認められません。セール実績を作るためだけに一時的に価格を上げた形跡があると、違反と判断されます。
さらに、計画がないにもかかわらず、「来月からこの価格になります」というように、計画のない将来の販売予定価格を比較対象にすることもできません。
(最重要)「過去の販売価格」と「最近相当期間(8週間ルール)」
「当店通常価格」として過去の販売価格を表示するには、一定の販売実績が必要です。これを判断する基準として「8週間ルール」と呼ばれる運用基準が定着しています。
過去の販売価格を比較対照とするための要件は、以下のとおりです。
| 要件 | 具体的な基準 |
| 販売期間の長さ | 過去8週間のうち、当該価格で販売されていた期間が過半(4週間以上)あること |
| 販売の直近性 | 最後に当該価格で販売されていた日から2週間以内であること |
| 最低販売期間 | 当該価格で販売されていた期間が通算で2週間以上あること |
出典:消費者庁|不当な価格表示についての景品表示法上の考え方
つまり、セール開始直前に価格を釣り上げ、すぐに割り引くような手法はできません。「相当の期間」、実際にその価格で販売していたという客観的な証拠が必要です。
希望小売価格や競合価格を元値にする注意点
過去の販売価格以外にも、メーカー希望小売価格などを元値にするケースがあります。この場合も、情報の正確性が厳しく問われます。
メーカー希望小売価格を使用する場合、メーカーが公表している価格でなければなりません。パンフレットやカタログ等で消費者に提示されていることが条件であり、すでに撤廃された旧価格は使用できない点に注意が必要です。
また、競合店価格と比較する場合は、実際の競合店の販売価格と一致していなければなりません。商圏が異なる店舗や、条件が異なる商品の価格は比較できません。
調査時点を明記せず、古い情報を掲載し続けることもNGです。
【ケース別】セール期間の「延長」「繰り返し」はどこまでOK?

「好評につき期間延長」は、セールスにおいて魅力的なフレーズです。しかし、安易な延長や繰り返しは「期間限定」の根拠を失わせることになります。
ここでは、よくある4つのケースについて、違法性の有無を解説します。
CASE1:「好評につき期間延長」は違反?
セール期間の延長自体は直ちに違法となるわけではありません。
しかし、以下のような場合、「期間限定」という表示が消費者に取引条件が著しく有利であると誤認させる有利誤認表示(景品表示法第5条第2号)に該当するおそれがあります。
- 当初から延長する計画だった場合
- 延長の合理的な理由がない場合
- 延長が繰り返され、常態化している場合
たとえば、最初から延長を決めていたにもかかわらず、短い期間を表示して焦りを煽る行為は、消費者を欺く行為に該当するため違法です。
また、「好評につき」等の理由がなく、単に売上が欲しいだけの延長もリスクがあります。実態として好評であった事実やセールを行った後にセールを延長する経営上の合理性などが必要です。
さらに、同一のセールを頻繁に繰り返し、実質的に年中セール状態となっている場合、「期間限定」の表示が実態と乖離しているとみなされて有利誤認表示となります。あくまで「延長」の範疇に留めるよう注意しましょう。
CASE2:期間を空けずに同じセールを繰り返す
セール終了後、すぐにまた同じ内容のセールを開始する行為も要注意です。「期間限定」と謳いながら実際には頻繁に開催されている場合、有利誤認を招きます。
セールの繰り返しの判断基準は、以下のとおりです。
| 項目 | OKな例 | NGとなる可能性が高い例 |
| インターバル | 前回のセールから十分な期間(例:数週間以上)が空いている | セール終了の翌日や数日後に再開している |
| セールの頻度 | 年に数回程度の季節的なイベント | 毎月、あるいは毎週のように開催されている |
| 内容の同一性 | 対象商品や割引率が異なっている | 全く同じ商品・同じ価格条件で実施している |
CASE3:「期間限定」を謳う「年中セール」
一年中常にセール価格で販売しているケースは、実態として「通常価格」での販売実績がない状態です。
このような場合、比較対照価格として表示している「通常価格」は、「最近相当期間にわたって販売されていた価格」とはいえず、二重価格表示として不当表示(有利誤認表示)に該当する恐れがあります。
通常価格の設定がない二重価格表示は、消費者に「今なら安い」と誤信させ、購買意欲を不当に刺激することとなります。
消費者の選択に大きな影響を及ぼすため、消費者庁が目を光らせるポイントの一つです。
CASE4:「閉店セール」が終わらない
「完全閉店」を掲げながら、実際には閉店せず数か月や数年にわたり営業を続けるケースも、有利誤認表示とみなされます。
閉店セールを実施する際、遵守すべきポイントは以下のとおりです。
- 閉店の定義
- 改装との区別
- 期間の明示
前提として、実際に店舗を閉鎖、または事業を廃止する事実が必要です。実際には閉店しないにもかかわらず「閉店セール」と表示することは、景品表示法違反となります。
「改装閉店」の場合は、その旨を明確に表記しなければなりません。単に「閉店」と表記すると、完全撤退と誤認される恐れがあるとして、違反になる可能性があります。
また、いつ閉店するかを具体的に示さず、漠然と「閉店セール」を続けるのもNGです。
セール表示のOK/NG言い換え事例集
セール期間や価格の表示において、わずかな表現の違いが適法と違法を分けることがあります。
誤解を招きやすい表現を避け、事実に即したクリーンな表現への転換が必要です。
問題となりやすい表現と、その改善案は以下のとおりです。
| NG表現(リスクあり) | OK表現(改善案) | 解説 |
| 「期間中ずっと半額!」 | 「◯月◯日〜◯月◯日は半額」 | 期間を具体的に明示することで、消費者の予測可能性を担保します。 |
| 「今だけ特別価格」 | 「秋の特別セール価格」 | 「今だけ」という曖昧さを排除し、セールの趣旨を明確にします。 |
| 「メーカー希望価格より安い」 | 「メーカー希望小売価格◯円より20%OFF」 | 比較対象の価格を具体的に示すことで、根拠を明確にします。 |
曖昧な強調表現は、景品表示法上の「有利誤認」と判断されるリスクを高めます。
「いつ」「いくらで」「何と比較して」安いのかを、客観的に証明できる言葉選びを心がけましょう。
社内の広告チェックリストにこれらの基準を組み込み、無意識の違反を防ぐ体制づくりが重要です。
関連記事:PRや広告を行う前に知っておきたい景品表示法とは?【言葉や表現】編
「タイムセール」「おとり広告」EC特有の景表法リスク

ECサイトの運営において、システムの自動化や在庫管理のズレが思わぬ法規制違反を招くことがあります。
とくに「タイムセール」と「在庫表示」に関しては、デジタル特有の監視が必要です。
ここでは、EC事業者が直面しやすい2つの主要なリスクについて解説します。
「タイムセール」のカウントダウン表示
「セール終了まであと◯時間!」といったカウントダウン表示は、消費者の購買意欲を強力に刺激します。
しかし、システムによる自動更新でカウントダウンを繰り返す行為は、景表法違反となる可能性が高いです。
注意すべきポイントは以下のとおりです。
- カウントダウン終了後の価格設定
- 次回のセール開始までのインターバル
- カウントダウンの自動更新設定
カウントダウンが「0」になった瞬間にタイマーがリセットされ、同じ条件でセールが続く仕組みは「不当な二重価格表示」に該当します。
システム設定を見直し、実際の販売期間と表示が適切かを確認しておきましょう。
セールと「おとり広告」の関係
「おとり広告」とは、実際には購入できない商品を集客のために掲載する行為です。
おとり広告に該当する典型的なケースは以下のとおりです。
- 商品が存在しない、または極端に在庫が少ない場合
- 販売期間外の商品が表示されている場合
- 購入条件が不明確で、実際には買えない場合
たとえば、供給量が著しく限定されているにもかかわらず、限定内容を明瞭に表示せずに目玉商品として大幅値引きを宣伝した場合、おとり広告として問題視されます。
「売り切れ御免」と小さく書けば許されるわけではありません。広告を見て来訪した顧客に対し、実際に商品を提供できるだけの合理的な準備が必要です。
ECサイトでは、在庫連携のタイムラグや管理ミスにより、意図せず「おとり広告」になってしまうケースがありえます。在庫切れの商品は速やかに表示を下げるか、「完売」を明記するシステム連携を徹底しましょう。
景品表示法に違反した場合の罰則(措置命令・課徴金)
景品表示法に違反した場合、行政処分として厳しいペナルティが科されます。
主な罰則の内容は以下のとおりです。
| 罰則の種類 | 概要 | 企業への影響 |
| 措置命令 | 違反行為の差止め、再発防止策の実施、消費者への周知徹底を命じられます。 | 違反事実が公表され、社会的信用が失墜する。 |
| 課徴金納付命令 | 違反行為の対象商品・役務の売上額(最大3年間)に対し、原則3%の課徴金納付が命じられます。ただし、課徴金額が150万円未満の場合は賦課されません(景品表示法第8条)。 また、2024年10月施行の改正により、過去10年以内に課徴金納付命令を受けた事業者が再び違反した場合、課徴金が1.5倍に加算されました(同法第8条第5項・第6項)。 | 過去に遡って計算されるため、高額になるケースが多い。 |
| 刑事罰 | 措置命令に従わなかった場合、行為者には2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(情状により併科)が科されます(景品表示法第46条)。法人には3億円以下の罰金が科されます(同法第49条)。 優良誤認表示または有利誤認表示を故意に行った場合、措置命令を経ずに100万円以下の罰金が科される可能性があります(同法第48条)。 | 事業継続が困難になるレベルの法的責任を負う。 |
とくに課徴金制度は、違反期間(最大3年)の対象商品売上額に対して3%が徴収されます。利益ではなく売上が対象になるため、経営を揺るがす金額になることも珍しくありません。
また、行政処分を受けた事実は、インターネット上で公表されます。消費者庁のホームページでは、一定期間が経過すると、ホームページから過去の執行状況が消えていきますが、場合によっては、他のホームページ等で半永久的に残り続ける可能性もあります。事業継続に大きな影響を与える可能性もあるため、違反しない体制づくりが重要です。
セール表示の景表法チェックは弁護士への相談を
セール企画や広告表現が景品表示法に適合しているかの判断は、専門的な知識を要します。
社内の担当者だけで判断せず、法律の専門家である弁護士のリーガルチェックを受けることが大切です。
弁護士に相談する具体的なメリットは、以下のとおりです。
- 最新の法改正やガイドラインに基づいた適法性判断
- リスクを最小限に抑えた代替案(言い換え)の提案
- 万が一の調査対応や意見書作成のサポート
とくに、大規模なキャンペーンや新商品のローンチ時は、弁護士による事前のリスクヘッジが大切です。
予防法務にコストをかけることは、将来の巨額な損失や信頼失墜のリスクを防ぐために必要不可欠な投資ともいえるでしょう。

景品表示法のセール期間に関するよくある質問
二重価格表示の「8週間ルール」に例外はありますか?
二重価格表示の8週間ルールには例外もありますが、条件は限定的です。具体的に、以下のような商品では例外が認められる場合があります。
- 発売から8週間経過していない新商品
- 生鮮食品のように販売期間が極端に短い商品
販売開始から8週間未満の新商品については、販売期間の過半数かつ2週間以上の実績があれば、過去価格として表示できる場合があります。
なお、生鮮食品は商品の同一性判断が困難であるため、タイムサービス等の例外的な場合(タイムサービスであれば、同一品を値引したことが明らかとなります。)を除き、原則として二重価格表示は不適切とされています。
ただ、知識がなければうっかり違反をする可能性もあるでしょう。安易に例外を適用せず、基本的には「相当期間」の実績が必要であると考えると安心です。
出典:消費者庁|不当な価格表示についての景品表示法上の考え方
景表法違反は誰が通報するのですか?
景表法違反の通報者は、主に一般消費者・競合他社・内部告発の3パターンです。
とくに近年は、SNSでの拡散をきっかけに一般消費者から通報があり、消費者庁が調査に動くケースが増えています。
また、公正な競争を阻害されたと感じた競合他社からの通報も少なくありません。
「バレないだろう」と考えず、誰に見られても恥ずかしくない表示を心がけましょう。
2024年の改正で、インフルエンサー自身も罰せられますか?
景品表示法の規制対象は、原則として商品を供給する「事業者(広告主)」です。したがって、インフルエンサー自身が直ちに景表法上の処分を受けるわけではありません。
ただし、インフルエンサーがステルスマーケティング等に積極的に関与していた場合には、広告主に対する行政処分とは別に、インフルエンサー本人の社会的信用やビジネス機会に大きな影響が出る可能性があります。
また、悪質な優良誤認や有利誤認に該当するケースでは、2024年の景表法の改正で直罰規定(優良誤認や有利誤認に該当する行為があったことをもって刑事罰を科すという趣旨です。)が設けられました。インフルエンサーも広告主の共犯として、刑事処罰の対象となる可能性があります。さらには、虚偽の事実を知りながら宣伝に協力するなど、刑事上の詐欺に該当し得る行為を行った場合には、景品表示法とは別の法律で責任を問われる余地もあります。
まとめ|景品表示法について理解を深め、適切なセール期間を設定しよう
セール期間の表示は、単なる集客テクニックではありません。景品表示法を遵守しなければ、自社のブランド価値を下げることに繋がります。
逆に、景品表示法について理解して誠実な表示を行う事業者は、消費者や取引先からの信頼を得られるでしょう。
もし自社の表示に不備がある場合は、直ちに修正が必要です。不安な方は、弁護士によるリーガルチェックを受けることをおすすめします。
弁護士法人丸の内ソレイユ法律事務所は、景表法・薬機法などの広告法務に精通した弁護士が多数在籍しています。セール企画のリーガルチェックや広告表現でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
