自社の商品やサービス、またはアイディアなどは事業主にとってはかけがえのない大事なものですよね。そしてそれらに秘密情報が含まれる場合には、守られるべきものでもあります。今回は不正競争防止法という法律と秘密情報をどう自ら守って行くか、対策と手段をご紹介します。
まず、秘密情報の話をするにあたり、医薬品ビジネスに関する業務を例としてみていくことにしましょう。医薬品ビジネスを進めるにあたり、当該ビジネスを時系列で概観すると、大きく以下の5つの業務があります。
①薬のタネを見つけその芽を育む研究業務
②さらに芽を成長させ、医薬品としての有効性と安全性に関するエビデンスを創出・収集し、当局から製造販売承認を得る開発業務
③販売する製品を製造する生産業務
④製品を販売しプロモーションを行う販売・営業業務
⑤製造販売後のエビデンス創出・医薬関係者等への情報の周知を行うメディカルアフェアーズ業務
このように複数のステップに及びこととなります。
今回は、特に重要な①研究業務及び②開発業務に関する契約の主なポイントに着目してみることにします。
① 研究業務について
研究業務を行う際に交わす契約として、試料提供契約書(MTA)、研究委託契約書、共同研究契約書、共同特許出願契約書、ライセンス契約書などがあります。
これらを締結する趣旨としては、研究活動によって生じることが想定される研究成果に即して、研究成果を定義した上で、その知的財産権や所有権の帰属、実施権の内容や条件、研究成果の公表に関して、明確にルールを決めておくことにあります。
特に、製薬企業とアカデミアとの共同研究においては、それぞれの目的が異なります。製薬企業の目的が、医薬品の開発・製造販売、医薬品の特許取得にあるのに対して、アカデミアの目的は、研究成果の論文や学会等による公表・研究活動の深化・発展にあります。そこで、契約内容の交渉においては、このような相手方が求めるもの・目的を理解し、譲れるところは譲歩してwin-winを指向することが契約締結のために重要となります。
② 開発業務
開発業務を行う際には、医師とのコンサルティング契約書、治験契約書、CROとの業務委託契約書などがあります。治験業務には、薬機法及びGCP省令が適用されるため、契約書作成においても、当該法令に準拠した内容にする必要があります。
具体的には、治験契約書には、GCP省令第13条第1項各号の必要的記載事項を漏れなく記載する必要があります(同項のGCP省令ガイダンスの解説もご参照ください。)。
また、製薬企業とCROとの間の業務委託契約書には、GCP省令において、当該契約書の必要的記載事項を漏れなく記載する必要があります(GCP省令第12条第1項各号、GCP省令ガイダンス第12条の解説もご参照ください。)。さらに、治験においては、健康被害が不可避であるため、健康被害が生じた場合の措置と責任の主体・内容を定めておく必要があります。
もっとも、薬の開発というのは一大事業です。このような重要な事業を始める前には、パートナーなる企業には当然に秘密を守ってもらう必要があります。そして、このような企業間の秘密を守る法律として、不正競争防止法が存在します。
不正競争防止法とは
突然法律の名称が出てきましたが、不正競争防止法とは、簡単に言ってしまうと下記のような事態を未然に防止する法律です。
- 先日プレゼンした新商品の企画内容が競合から先に出された。
- 自社製品の技術と全く同じもので他社から発売されている。
といった、企業秘密にしておきたい場合、情報の漏洩や盗作は機会損失、そして信頼の低下など被害を防ぐことを目的とした法律なのです。
より具体的には、競合となる相手を貶める風評を流したり、商品の形態を真似したり、技術を盗んで取得したり、虚偽表示を行ったりするなどの不正な行為や不法行為(民法第709条)が行われるようになると、市場の公正な競争が期待できなくなってしまうために制定されました。
また、粗悪品や模倣品などが堂々と出回るようになると消費者も商品を安心して購入することが出来なくなってしまうため、市場における競争が公正に行われるようにすることを目的としてもあります。
そして、不正競争防止法は主に以下4つの保護を対照とし、それぞれ禁止しています。
1)営業秘密の保護・・・営業秘密や営業上のノウハウの盗用等の不正行為を禁止
2)デッドコピーの禁止・・・他人の商品の形態(模様も含む)をデッドコピーした商品の取引禁止
3)信用の保護・・・周知の他人の商品・営業表示と著しく類似する名称、デザイン、ロゴマーク等の使用を禁止、他人の著名表示を無断で利用することを禁止
4)技術管理体制の保護・・・コピー・プロテクション迂回装置(技術的制限手段迂回装置)の提供等を禁止
不正競争防止法に違反すると
そして、他人の営業上の秘密を侵した者へは、この法律に基づいて差し止め請求、損害賠償請求、信用回復措置請求などの民事的請求をすることができます。また10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金などの刑事罰もしっかりとある重い法律です。
秘密保持の手段
まず自ら自社商品やサービスを守る事を心がける必要がありますが、その手段として、何自社と取引関係にある、もしくは、これから取引を行おうとする取引相手とNDA(秘密保持契約)を締結することが第1歩といえます。そして、NDAの中で会社の資料などには秘密情報であると明示した内容については、外部に漏らしてはならない旨定めることができます。
例えば、秘密情報が記載された資料や議事録には、「Confidential」や「社外秘」といった表示を記載して取引先には渡すこととなります。また、口頭などで開示した秘密情報は直ちに書面化して交わす等、方式は様々に決めることができます。
何を秘密とするかは、当事者の合意によりますので、極端に言えば、取引をしていること自体も秘密とすることができるのです。そして、契約を交わしたわけですから相手が秘密を漏洩したり、契約したことに違反した場合は相手に損害賠償請求、差止請求をすることが可能です。
ビジネスにおいては、法律があるから安心というわけではなく自ら秘密情報を守るということも必要です。上記のように例に挙げた医薬品ビジネスのような重大なビジネスを始める際にはもちろんですが、自社で積み上げたものが、他社にかすめ取られるという事態は絶対に避けなければなりません。
そのため、秘密保持契約に関しては、書面化し万全を期すことが必要です。そのため、NDAには、大事な内容が記載されていなかったり、会社の意図が反映されていないような事態はあってはならないことですから、NDAの内容に関しては、一度専門家に相談することをおすすめします。
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機密保持契約書や業務委託契約書など、ビジネスに不可欠な法律文書は必ずチェックが必要ですので、契約書に関してご不明点ございましたら一度弁護士へご相談ください。